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「毛、生えててもよくね?」私がメイク写真のムダ毛批判に抗議した理由

今年3月、twitterでいわゆる"美容アカウント"を作った。その名の通り美容に関する情報を集め発信するためにのみ、特化したアカウントである。

元々ズボラな私は「自分が好きなものを楽しむことを何よりも優先する」をモットーに、ゆる~く"美容垢"(美容アカウントの略)ライフを楽しんでいた。昼過ぎに起き顔も洗わずベッドで腹を出しながら、スマホ片手に"美容垢"ライフを楽しんでいたそんなとき、とあるツイートが私の目に飛び込んできた。

そのとき一度見たきりなので正確な文章などは覚えていないのだが、要約すると「美容アカウントなのにムダ毛が写っているメイク写真を載せるなんてありえない。」というような内容であった。ここでいうムダ毛とは主に眉毛の剃り残し、顔のヒゲ、うぶ毛などだと思われる。

どうしてもこのツイートを見過ごすことが出来ず、この事に関して異を唱えるべくツイートした。

ここまで多くの人の目に留まるとは思わず、怒りのデスロードを突っ走りながら自分の思いをそのまま吐露したものであるので、今客観的に見ると"良い文章"とは断じて言えないが。

とどのつまり私が言いたかったことは「毛、生えててもよくね?」と「自分の価値観を他人に押し付けたり、他人をジャッジするのはやめようぜ」ということである。

一応美容アカウントを名乗っている身なので「毛、生えててもよくね?」をメインに話していこうと思う。

あらゆるところに存在する脱毛広告

「"美容"アカウントなのだから、ムダ毛が入り込んだ写真はNG」ということは簡単に要約すると「ムダ毛は美しくないからNG」ということになるはずだ。「ムダ毛は美しくないからNG」と聞いて、なんだか聞き覚えのある言葉だな……と思う女性はたくさんいるのではないか。

昨今ネットでYouTubeの「外見蔑視」広告が不快だと炎上し、署名サイト「change.org」で「【Youtube広告】YouTubeでよく見る体毛や体型などに関する卑下の広告、やめませんか?」という外見蔑視広告の見直しを求める署名が4月下旬から始まり、7月13日現在3万筆以上集まっていたりする。前述の「ムダ毛は美しくないからNG」は、この「外見蔑視広告」のメッセージとよく似ているのだ。

肌は毛がなくツルツルであれ、痩せていろ、目は二重であれ、化粧はマナー、外に出る時は身なりを整えろ、ヒールを履け、美しくいろ……

この日本社会はルッキズムに支配されており、特に女性においてとても生きにくい社会だと思われる。というか1人の女として私は思う。外に出歩くとどこの馬の骨が決めたのだか分からない、上記のような「女性はこうあるべき」という型を押し付けられるのを1人の女としてビシバシと肌で感じるのである。

その中でも「脱毛」は特にポピュラーなものではないか。YouTube広告だけではなく、脱毛の広告というのは至る所に存在している。電車に乗っていて脱毛の広告を見ない日はない。街中にも溢れているし、テレビCMでも頻繁に流れている。

そうやって女性自身も気づかないうちに「毛は生えていてはダメなもの、恥ずかしいもの」と思い込まされ、傷ついている現実がここにあるのではないか。

「"美容"アカウントなのだから、ムダ毛が入り込んだ写真はNG」というような趣旨のツイートは、そのような主に女性に対するルッキズムの強迫観念をより強固にしてしまうのではないか、小さなことかも知れないが周りへの抑圧に繋がる可能性を孕んでいるのではないか、と思い苦言を呈した。

まず"美容"アカウントだからといって、このルッキズムゴリゴリの日本社会で規定された"美の基準"に従わなければいけない理由なんて甚だない。

そもそも人間とは基本的に毛が生えている生き物なのだから、当たり前だが女性だろうと身体中に毛が生えていることはおかしなことではない。それなのに「女のムダ毛はみっともない」なんて価値観、ルッキズム社会が作り出した虚像である。

両津勘吉を恨んだ小学校時代


私自身子供の頃から毛深いことがコンプレックスで今もそのコンプレックスを抱えながら生きているが、「毛は恥ずかしいもの」という固定観念を植え付けられたのはいつだったか定かではない。記憶を遡ると最古の記憶は小学4年生のときである。

あるとき突然クラスの男子に「こいつ眉毛繋がってる~!両さんかよ!」と大声で笑われ騒がれたのである。私はその場で完全にフリーズし、恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなく、泣くのを必死で堪えた。そして家に帰って1人で泣いた。

この日ほど両さんを恨んだ時はない。(両さんごめん)そしてこの頃フリーダ・カーロを知っていたら少しはダメージが減ったのでは……と思わなくもない。

その時から眉間の毛の処理は怠らなかったし、小学5年生になった頃には父の5枚刃髭剃り(切れ味最強)をこっそり拝借し腕や足の毛を剃っていた。(父ごめん)

うなじ、肩、背中など自分で剃れない部分の毛を見られるのが嫌で、5~6年生のプールの授業は全て休んだ。無論水着を着たくないという理由もあったが。

客観的に見て11歳そこらの女の子にここまで思わせる日本社会ルッキズムが根深すぎ狂ってるだろ!と中指を立てたくなる。もはや無意識に中指が立ってしまう。

こんな社会滅ぼしてやる……と思い、革命だ……と闇堕ちしたサスケになりそうだった私であるが(NARUTO参照)、フェミニズムと出会いルッキズムの概念を知り「女性でも毛、生えててええんやで」というメッセージを受け取ったことで少しずつ心境が変化していった。

自分は上に述べたような外見蔑視広告を見ると貴様許せん!という思いから、キエエエエェェェッッ!!!!!と猿叫しながら日本刀を振り回すタイプの人間であるのだが(ゴールデンカムイ参照)、それでもそれと同時に心の底で傷ついた子供の私がひっそりと潜んでいるのである。自身の事ながら、それだけ根が深い問題なのだと窺える。

ムダ毛批判のツイート主を責めるのではなく

抹茶さん記事写真2

美容アカウントで脱ルッキズムを掲げているのは自分自身このルッキズムの呪いが強く、そこから抜け出したいからである。コンプレックスが根深いのでまだ「毛、生えててもいいや! 自身の身体に生えてる毛全て愛しちゃお! Love!」とは心から思えないが、「毛、生えててもええんやで」というメッセージに触れることで楽になった。

自身の話が長くなってしまったが、これ程までに女性に対する強迫観念が強い社会であると確信すると、元のツイート主さんもルッキズムに囚われた1人なのではないかと思う。

個人の主観ではあるが「ムダ毛が写っているメイク写真なんてありえない」という趣旨のツイートが、どれだけルッキズムの概念が女性の身に染みているかを物語っているのではないか。

自身の価値観を押し付け、ムダ毛処理していないメイク写真を載せる人々をジャッジすることには問題提起するが、思想やポリシーにおいて元のツイート主さんを責める気は全くない。

また、自身が美容アカウントでメイク写真を載せる際はあまりムダ毛が写り込むことを気にしたことはない。ただ毛に対するコンプレックスをまだ抱えながら生きているので、メイクする前にある程度顔面の毛の処理は済ませている。

勿論メイク写真を載せる前に、加工アプリで色味を整えたり美肌加工したり「ま……ある程度アラは隠しとくか……」という心持ちでモザイク加工したりはする。が、ムダ毛を発見して「悪魔の末裔が!! 根絶やしにしてやる!!」という強固な意志はないので(進撃の巨人参照)、ムダ毛を1本1本加工して消したりすることはない。

無論他の美容アカウントの方々のメイク写真を見る際、ムダ毛が写り込んでいても特になんとも思わない。逆に美容垢さんのメイク写真でいわゆるムダ毛と呼ばれる毛を拝見できると、私と同じ生命体だ!嬉しい!と、独りぼっちで宇宙空間を彷徨っていた宇宙人が100万年ぶりに仲間を見つけたときの様に狂喜乱舞することはあるが。

美容アカウント界隈の端くれとして、この界隈が日本社会の縮図のように「美容アカウントはこうであるべき」という固定観念が広まり、窮屈になるのは避けたかった。

それに「女のムダ毛はみっともない、恥ずべきもの」という頓珍漢なジェンダーバイアスがこれ以上蔓延るのも御免だ。

自身はこれらに傷つき生きづらさを感じていたので、その固定観念によって私と同じような人が出てくるのが嫌だった。好きでやっている美容アカウントくらい、他人にジャッジされず自由で楽しいツイッターライフを過ごしたい。そういう思いからムダ毛批判に問題提起したのである。

自身の価値観を他人に押し付けない、ジャッジしない

"美"という基準は人それぞれである。どんな価値観を持っていようがみな自由であり、他人が口出しすることではない。

しかし「女のムダ毛はみっともない」という日本社会に定着している価値観は、ルッキズム社会が作り出した虚像であり、それによって苦しんでいる女性が多くいる、という事実は全人類が知っておくべきことだと思う。

それを踏まえた上で毛がないことを美しいと感じるのも自由だし、またはその逆であるのも自由である。

繰り返しになるが「自身の価値観を他人に押し付けない、ジャッジしない」ことが大切なのではないかと思う。それができたら皆、美容垢ライフも、そしてリアルな生活もハッピー世界平和になるのでは?と思っている。

余談になるが、最近毛についてばかり考えていたので、フェミニズムにとりわけ関心のない母に脱毛広告などについて話を振ってみた。

広告について「マジでうるせ~!って感じだよね」と言っていたので、女性は世代間問わず同じ思いを抱いているのだなと改めて思った。

また、私には顎にうぶ毛程度ではない並々ならぬ強靭な"ヒゲ"が数本生えている。昔は嫌で仕方なかったが、最近は成長を見守り逞しく成長した毛を引っこ抜いてスゲ~!と眺めることが楽しく、もはや家庭菜園である。

農家の人は作物が育つとこんな気持ちになるのか!と農家疑似体験が出来るので、強靭なヒゲが生えている人にはオススメだ。

顎に強靭なヒゲが生える話は人に話したことがなかったのだが、ふとしたときに父に話してみた。

「そりゃ人間だからヒゲの1本や2本生えるわな!」と返され、実際は4~5本生えるのだがとは思いつつ、心がすごく軽くなった。

自身を肯定され受け入れられることが、こんなに心が楽になるものなのだと最近ようやく知った。どれだけ外見蔑視広告などで自身を否定され続けていたのだろう。それがどれだけ女性たちにダメージを負わせているのか身を持って分かった気がした。

この女性を取り巻く社会の現状に気づいてる人も気づいていない人も、少しでも多くの女性が(勿論男性も)幸せで生きやすい社会になってほしいと心から願っている。

そしてこれからもベッドに寝っ転がりながら、ゆるゆるとハッピーで自由な美容垢ライフを過ごしていこうと思う。

全美容垢さんに幸あれ!

執筆=抹茶
写真=Unsplash

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