【マゾ日記vol.1】アラサーバンドマンから人生のエモさを教わった話
▼著者の自己紹介▼
サディスティック姉さん
マッチングアプリなどで出会ったマゾたちの話を「マゾ日記」としてnoteに執筆する20代後半のOL。好きなタイプは犬のように従順で、命令すれば地面に落ちたじゃがりこも容赦なく食えるようなマゾ。風俗経験やSMクラブ所属などは一切無しのただの一般人、SMに興味があるビギナー層をどうにかこっち側にひきづり込みたいと考えている。(特にS女人口が増えることを願っている、この国にはマゾ男が多すぎる!)==================================================
だぼだぼの黒いパーカー、ごつめのシルエットのスニーカー、重い前髪・・・。
豪雨とはいかないまでも雨粒は大きく、
椎名林檎の群青日和の一節を口ずさみたくなるほどには
降りしきる雨の中、
新宿東口でこちらに気づいて手を振る男、
間違いない。
紛れもなく、彼(バンドマン)だ。
事前のメッセージで
女性にドタキャンされることが多いこと、などなど、
マッチングアプリ特有の自虐エピソードの数々で楽しませてくれた彼だったからか、
なんとなく今日の雨は少し卑屈な性格の彼の雰囲気と合っていた。
「雨いやだね。」
人とすれ違いざまに器用に傘を傾け小柄な身をするりと交わし、
地面を睨む視線は冷たく鋭い。
下町あたりに住まうベテラン野良猫のような人だと思った。
野良猫に誘導され事前に約束していたカラオケに向かう。
3時間ほど歌う。ここで注釈だが彼はボーカルだった。当たり前に上手だ。
その後はカラオケルームという密室からラブホテルという新たな密室に移動して、一通りの流れを済ませた。
マゾという話だったけれども私の好みのマゾとは違うな・・・
というのが当時の感想。
好むプレイスタイルは極めてシンプル、かつクンニはしないなど自らの奉仕活動を欠いたものであるのにも関わらず、
「おかしくなるほど気持ちよくさせてほしい」
と何度も要求してくる人だった。
そう、バンドマンは総じてワガママで子どもである。
私は思い出した。
そしてバンドマンも自身が「バンドマン」であることを思い出したかのように、
言行動がどんどん幼児退行していく。
「怖い…よくわからないけれど一緒にいるだけで、
どんどん自分のクズさが引き出されていく。」
彼は何度もこう言った。
精神面に作用する方面のSMは得意だが、
肉体面で「おかしくさせる」高度な技を私は持ち合わせていない。
したがって、バンドマン希望の
「おかしくなるほど気持ちよくなれる」プレイは一切叶えられていない。
しかし、プレイスタイルは合わないが、
互いに相性が良いことを実感し合っていた。
SMの主従関係とは違う、なにか違う精神作用である。
クズさを引き出す女
と
クズさが引き出されていく男
…
この構図をわたしは知っている。
貢ぎ女
と
ヒモ男
私自身、過去に「貢ぎ女」の経験があった。
そして、彼は過去、それはそれは立派な「ヒモ男」であったそうな。
納得がいった。
ひとしきり互いの過去のヒモ話(貢ぎ話)を楽しみ、
(あるある話のオンパレードでそれはそれは盛り上がった。)
彼はバンドマンを辞め転職予定であるという今現在の話まで聞かせてもらった。
その話の最中、私はラブホテルに常設されたドリップパックの珈琲を淹れ飲んでいたのだが、
ラブホテルの珈琲を飲む女の子なんて初めて会ったと爆笑される。
私は気恥ずかしさを誤魔化すように
バンドをしていたときは楽しかったのか、と
寝ながらも崩れた前髪をしきりに直していた彼に聞く。
「たのし…夢中だった。」
「楽しいとかじゃないかも。夢中で駆け抜けて…あっというまだった。」
彼は髪をかきあげる手を止め、鏡ばりの天井を見つめていた。
一瞬だけ、この人の人生を覗けたような気がした。
ここはラブホテルの一室、
初めて会った人間と、馴染みのない薄暗い部屋。
けれど、その瞬間に彼の10数年分の感情がこの殺風景な小部屋に流れ込んできたような感覚がした。私の知っている感情の波、波間に煌めく知っている弱さたち。暖かく苦い珈琲が再び胸に込み上げてくる。
「そっか、素敵な時間を過ごしたんだね」
「どうだろ、結局売れなかったから意味ないけど。
それよりさ、
髪崩れて見た目カッコよくないし、クズなところも出てしまっているし…
こんな素出して女の子と一緒にいたことなかったんだけれどいいの…?」
いやよくないよな、ごめん、と紡ぐ彼を精一杯の力で包みこむ。
耳たぶを齧る。
どうか彼の人生が幸せでありますように。
他人様が何と言おうと、この感情は愛だ。
珈琲を飲んだのにも関わらず、
彼と私と2人だけの鏡ばりの部屋で、
自然と眠りについた。
翌朝、
寝起きの髪型を気にする彼と身支度を整えた後、別れた。
新宿駅構内でエフェクターケースと各々の楽器を台車で運ぶバンドマンたちとすれ違う。
はたして自分には夢中で生きてた時間ってあっただろうか、
久しぶりに味わう朝帰りの空気感を楽しみながら帰路についた。
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♡あとがき♡
マゾ日記vol.1読んでくださってありがとうございます!
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ちなみにバンドマンのお兄さんはいまでもたまにラインするよ。
元気かね。このnote目に止まったら即バレるかもだけど、
そのくらい拡散されたら本望だよねえ。
では、またvol.2をお楽しみに!
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