擬態
逃げ場なんかどこにもなかった
小さい頃から兄は乱暴者だった
珍しい動物を次々に飼っては手荒に扱った
小さなネズミを池に落として
もがくのをみて大笑いしていた
ネズミに同情する余裕など
私にはない
興味の対象を触らずにはいられない
野蛮な子供の気持ちを
誰にも諌められることなく
兄は成長していく
やがてうっすら髭が生えて
大人と同じような腕力になるが
頭は子供のままの兄
父にも祖父にも
大好きな長兄にも
ちっとも似ていない兄
そして母に溺愛されている兄
逃げ場なんかどこにもなかった
何をされたか
どんなに怖かったか
どれぐらい泣いたか
誰にも言ってはいけなかった
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