マガジンのカバー画像

短編小説(ショートショート)

5
運営しているクリエイター

記事一覧

小人のピッケ

小人のピッケ

ピッケの宿さがしは
いつも心のむくまま、気の向くまま

大きなカバンにたくさんの荷物を詰めながら、ピッケは言います。

「やだ、今日のあたしの癖毛、ひもで縛らなきゃ!」

鏡の前でピッケは髪をひもで止めながら、何やらぶつぶつ、ぶつぶつ…。

「おとといの晩はトマトパスタ…昨日の朝はチーズトースト…。」

ああ、なんだ。食べ物の話だったんですね。

そして、ピッケは旅立ちます。

「ありがとうござい

もっとみる
リトロリトル

リトロリトル

リトロリトル。
星の名前。

広い天球のわし座の横に光る、小さな迷い星。

「お兄ちゃん、なにそれ?」
「知らない?久美が子どもの時に好きだった絵本だよ。」

わたしは、小さな迷い星。
この広い大空で、私はひとりぼっち。

「ふーん…、私こんなのが好きだったんだ。」
「覚えてないのか?」
「うん。全然。」

リトロリトル。
わたしの名前。

あの小さな惑星の、小さな小さな男の子がわたしにつけてくれ

もっとみる
ブタとキリギリス

ブタとキリギリス

僕はあのとき、ブタになった。
気付いたときにはもう遅い。
僕はすでにブタだったからだ。

キリギリスは言った。
「ブタさん。
ブタみたいにブッタたかれて、ナニが面白い?
牧場の吹き溜まりになって、肉になるのがオチさ。」

キリギリスに何が分かる。
このブタの憤りが。不満が。苦痛が。

僅かばかしの水と不味い飯を食わされて、ただ腐っていくこの精神の苦痛を。
この憤懣と欺瞞に満ちた、うその世界に。

もっとみる
ニンジンしりり

ニンジンしりり

カラシにんじん
ピリリと辛い

人人(にんじん)の世も しりりと辛い

私は、終電の電車からゆっくりと駅のホームへと降りた。
「これで東京ともしばらくお別れね。」

 私は、有休を使って女の一人旅へと出かけた。
電車は一駅、また一駅と東京から遠ざかっていく。

 ガタンゴト…ガタンゴト…。

 私はひとり、昔の想い出に思いを馳せていた。

 「ほのかー。早く来いよー。」
 「たっちゃん、待ってよー

もっとみる
くじらを50回折ったおんなのこ

くじらを50回折ったおんなのこ

あるところに、クジラの姿をした大きな大きな折り紙がありました。

クジラ紙は言いました。

「おいらを50回折ることができるかな?」

すると、幼稚園でいちばん折り紙が上手なキミちゃんが言いました。

「ふん、そんなの簡単じゃない。50回折るだけなんでしょ?」

「ほんとうの本当にそうかな?」

クジラ紙はにかにか顔でにんまりほほえみます。

そして、キミちゃんとクジラ紙の勝負がはじまりました。

もっとみる