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言海のモノリス

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1.2 記憶から来た男

1.2 記憶から来た男

「そなたは記憶から来た男を知っているか?」
名うての老店主は尋ねた。

記憶から来た男は、思念の靴音をその場に残す。
時の流れを超越し、自由に時間を行き来できる。

「人びとの記憶から記憶へと飛び移り、時間を超越していくのじゃ。」

音は虚空へと消え去り、すべては虚無に包まれる。
記憶から来た男は、そのことを告げに私の書斎までやってきた。

「なんだ?何か用か?」
「いえいえ、少々時間の余裕ができ

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1.1 独立独歩

1.1 独立独歩

私は気付くとここにいた。
ここはどこだろうか?
見果てぬ地平が無限に続いている。

海の外か…?空の上か…?

そんなことはどうだっていい。
私に語り掛ける声は、こう続けた。

「思念の故郷でキミを待つ。
君の根源を映すことばの海で会おう。」

モノリスが私を待っている。

私は、穏やかに本を読みながら、怠惰な昼下がりの午後を過ごしていた。

照り付ける夏の日差しが、世界を生という退廃に染め上げて

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