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丁度よいもの。

彫っている。木片を。娘の彫刻刀で。

彫るための材でもないし、学校教材の彫刻刀ではあるし、彫り進まぬこと亀の歩みの如くゆるりゆるりと彫っている。

五本の刀のどれを使おうか、どの方向から彫れば刀が滑らかに進むのか、力加減や手の向き、木片の傾け方、削る感触、削りかすの形、木目、色の変化、ひとつひとつ確かめながら彫る。

マニュアルがあるわけでもなし、自分と相手の具合を見ながら、何を象るでもなくただ彫っている。此れは此処まで、と思うところまで彫る。

三角形の端材は三角形のまま、ちょうど手に収まる滑らかさになっている。
何物でもない。丁度いい。
美徳である。
角がなく、厚みがなく、 なにより用途がまったく無い。
素晴らしい美徳である。
わたしの心を安らかにしてくれる。
刀を置いた。

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