誰に向けて話すのか、そのひとりを決める

スピーチ講座やレッスンでは様々なお悩みや質問があります。
先日もレッスンで質問がありました。『人前で話す時にはどこを見て話せばいいのかわからない』。人と目が合うと恥ずかしいとか、目のやり場に困るとか。

どこを見て話せばいいのか、については答えがあります。

1対1ならもちろん目の前にいる話している相手の顔です。オンラインであれば、カメラです。残念ながらオンラインでは画面上の人と目を合わせることは不可能です。しかし、顔(目)を見ているように見せることは可能です。それが、カメラ目線。
大勢の前で話すなら、そこにいる人たち全員の顔を見ながらです。人の顔を見て目が合ってしまうと途端に緊張してしまう、という方は無理に見なくてよいので、会場内をあちこちゆっくり見回せば大丈夫です。

良くないのは、手元の原稿や資料を映し出しているスクリーンばかりを見て話すこと。原稿の上にもスクリーンの中にも伝えたい人はいません。それでは、声がマイクを通してスピーカーで増幅されても気持ちは届きません。

ここまでは誰でもほぼ同じなのですが、私がもう一歩踏み込んでお伝えしているのは『誰に伝えたい』のか。
こちらは答はないですし、それぞれ全員違います。もちろん話の内容によっても変わってきます。

気持ちが伝わらない例として陥りがちなのが、大勢の前で話す時に「その場にいる全員に伝えたい!」と思うこと。例えば、会社の朝礼などで社長が社員に向けて何か話す時。この話は社員全員に伝えたい、と思って話すと意外と誰の心にも響かず誰にも伝わらずに終わります。なぜか。対象が絞れていないので、一般論になりがちだからです。一般論は広くて浅い。だから聞く側も自分事として受け取り難いのです。
広く皆に向けたものは誰にもフィットしないのです。経営者の方は自社の商品を買ってくださるお客様のペルソナを設定したりしますよね。それと同じです。

私のブログはいつも実在する誰か一人に向けて書いています。どこかで会った経営者だったり知り合いの悩めるビジネスマンだったり。
しかし私は基本的にはいつも同じひとりに向けて語りかけています。

それは昔の私。具体的には『中学校2年生の時の菱田さつき』に向けて。

他者とコミュニケーションを取れず対人関係にストレスと問題を抱え、自分の力で何も変えることができなくて、自分も周りも全てが大嫌いで不機嫌なティーンエイジャーだった私に「大丈夫。大人になったら自分で選択した自分の望む人生になるから」と。
中学2年生だった時、私にこう言ってくれる大人は一人もいませんでした。おそらく今も日本中のあちこちに『中2のさつき』は存在しているはず。そう思うと胸をギュッと掴まれるような感覚になり想いが入るのです。

この話はこの人に伝えたいという誰か『ひとり』を決めて、その人に向けて語る。その対象の人はその場にいてもいなくてもいいです。なんならもう生きていなくてもいい。
とにかく誰か『ひとり』。その人に『語りかける』つもりで話す。そうすると皆に伝わるのです。

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