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万引き家族/是枝裕和

血は繋がらないけれど優しい人が教えてくれた歌
傷つけるんじゃなくて、抱きしめることが愛だってこと
ビー玉の中に海があること

リンちゃんがこの先誰かにそれを教えてあげられる未来が来ることを願わずにはいられなかった。人を傷つける正しさや、常識、正義ってなんなんだろう。それらが子供達を守ってくれるなら、この作品は生まれたりしなかった。間違いだらけで、親というにはあまりにも欠陥している彼らが子供たちを拾い、守り、正しさや常識や正義が教えてはくれなかった様々なことを子供たちに与えた。どうして、親だとか親じゃないだとかを世間が決められる?どうして彼らが過ごした時間を、正しいとか正しくないで否定できる?それを決められるのは子供しかいないのに。あの日見た海を、誰も奪うことなんかできない。

「万引きしか教えられることがない」、そう自嘲しながら言った治のことを私は抱きしめたかった。そんなことない、そんなことないんだよ。あなたが自分の名前を託した少年は、あなたが知ることのできなかった多くのことと、それからあなたが教えてくれた多くはないかもしれないけれど大切なものたちを抱きしめながらあなたとは違う人生を歩んでいく。それを引きとめなかった、否定しなかった、奪わなかった、強要しなかった。それって、簡単にできることではないと思うから。あの作品の全部を、私は抱きしめたかった。

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