ヘダー

イスラエルとグルジア 【グルジア酔いどれ夜話/Siontak】

第十九夜

「ハイ、僕の名前はアダム。これからする質問に正直に答えてくれれば、あなたはすぐに入国できるよ。」
イスラエルの入国審査官はこう言って席をすすめてきた。


新年明けましておめでとうございます。
お正月はイスラエルへ行ってきました。

この冬、グルジアは20年に一度という寒さ。最近は世界のどこに行ってもそんなような言い回しを聞くけれど、トビリシでも連日最低気温が-5度を下回るような日が続いていた。グルジアに来るまで最低気温が+13度くらいだった台北に住んでた身にはことのほかきびしい。

正月はどこか少しでも暖かい国で過ごしたい。そういう思いで近場の暖かい土地を探したところ、日本の友達がイスラエルにいることを思い出してイスラエルに行ってきた。
ということで今回はちょっとイスラエルの話。イスラエルでは僕も人並みにいろいろ考えることがあったのだが、まだまだ消化不良の感が否めない。難しい真剣な話はまた別の機会にしてこの連載のタイトルに少しでも沿ったイスラエルとグルジアの関係について書いてみたい。

テルアビブの旧市街
やっぱり中東。冬でも天気がいいと20度を越えた。あったかい!


その前に話は入国審査に戻る。
イスラエル旅行の最大の難所である。
イスラエルの入国審査は厳しいことで有名らしい。パスポートコントロールでパスポートを見せると訪問の目的、滞在期間などを聞かれる。これだけで入国できる者も多い。僕の場合は入国審査の待合室に連れていかれてしばらく待つように言われた。ここまでは想定内。
なにしろ僕のパスポートにはイランに三ヶ月も滞在した記録があるからだ。

イランはイスラエルの文字通り敵国である。イスラエル建国後、イラン革命までは友好国だったのが革命後はイランが反米、反イスラエルとなり、中東の親米国サウジアラビアなどを除くとイスラム界一番の大国である。かつてはハマスを、そしてヒズボラを支援していたイランはイラクとシリアが疲弊した今はイスラエルにとって一番の脅威ということだ。

イスラエルでの休暇を計画するにあたってイスラエルに8年住む友達に入国不許可の可能性について聞いてみた。答えは大丈夫とのこと。

曰く、別室で面接審査があって時間はかかるだろうが中東関係やパレスチナ問題に無知で無関心な旅行者を装えば入国できる。ただ友達に会いに来たと言えばよい。間違ってもシオニズム運動だとか、イランとの関係について言及してはいけない。私と夫の名前とID、住所、電話番号を審査官に見せて。

他にも色々な助言を受けて万全の態勢で臨んだ入国審査だったがなかなか手強かった。
別室で待たされている間に審査官のアダムは僕のパスポートをよく吟味していたようだ。10年も日本に定住していないこと、これまでの渡航国の中でもイスラム色の強い国への滞在期間を時系列で整理しているようで、渡航目的、その間の収入源、日本にとどまらない理由等々、細かに聞いてくる。必然、ここ10年の経歴を話して聞かせることになり、他人に説明するのみならず自分の人生の来し方を再確認するおまけまでついてしまった。

最初はにこやかだったアダムの質問は徐々に執拗になり、最終的には尋問になった。尋問テクニックなのだろう、回答者を苛立たせる質問を挟み、回答者の精神状態をかき乱そうとしているのだった。うまく乗せられてしまった僕は怒りに任せて言ってしまった。

「正直(honest)に答えればすぐ入国できると言っておいて、あなたの言い方はhonestのかけらも見当たらない!」

「おまえは自分の置かれてる状況をわかっているのか?」

「取り調べがあると知ってたら弁護士を連れてきたのに」

もう入国できなくてもかまわん、この鼻持ちならん審査官にひと泡吹かせてやりたいとやる気満々になったところで審査は終わった。

待合室でさらに1時間待った後、僕の入国許可が下りた。所要時間合計3時間。友達に聞くともっともっと時間がかかるケースもあるそう。
直情的に怒ることも言い方を変えれば正直だからこそだ。なにかを隠して入国しようとするスパイならこういう反応はしないのだろう。「すぐ」とはいかなかったが結果的に入国できたのだからよしとしよう。

審査の中でされた質問のひとつに

「そんなに仲のいい友達なのになんで10年もの間訪ねに来なかったんだ?」

というのがあった。答えは簡単で

「遠かったから」

以前住んでいた台湾や日本からは遠いイスラエルだがグルジアからは意外なほど近く、だからこそ今回初めて訪ねることにしたわけだ。

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