自作詩『川辺のセミ』
『川辺のセミ』
セミの声が響く
川の流れと車の走行音が
溶けていく午後
あのセミの声は何だろうかと
空に耳を傾ける
夏の声だろうか
それとも聞かれたくない何かを
隠しているのだろうか
あるいは何も鳴いていないので
私たちは夏の寂しさに耐えかねて
鳴り物を鳴らしはじめたのかもしれない
何が寂しかったのだろう
この蒸し暑いさなかに
黙って汗も流れて生きているのに
セミの声が私の胸をつきぬけていく
夕暮れの風も吹いているのに
いつまでも鳴り止まないでいる
重い夕日が沈んでしまう
もう誰にも止めようがないのだ
押し戻すこともできないで
西の空に温かそうな雲が光っている
その手前の黒く陰る木々の隙間を
セミの声がうめつくしている
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