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アートギャラリーで働くということ(前編)

20代の終わり頃、1年ほど現代アートギャラリーに正社員として勤めていました。今回はその時の体験をもとに、「ギャラリーで働く」ということについて書いてみたいと思います。

この前編では、ギャラリーで働くまでのこと、つづく後編では、働いてからのことを中心に書いています。後編を読む↓

なお、体験談は特定を防ぐために9割リアル:1割脚色で書いています。また、ギャラリーの大多数が個人経営のため、個々のギャラリーによって事情がだいぶ異なります。あくまで私個人の体験・感想として、参考にしていただければ嬉しいです!


ギャラリーで働くという選択肢

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ギャラリーで働くことに興味を持つ方は、アートに携わっていたか、アートに興味がある方がほとんどだと思います。

私は大学院でファインアートの研究をしていました。が、ちょっと変わった研究室だったことや、プライベートの事情もあり、学芸員資格を取りそこねました。

公共の美術館でキュレーターになろうと思うと、基本的には学芸員資格が必須となります。監視のバイトなどは無資格でOKなので学生時代にやっていましたが、これだけで自活するのは厳しいものがあります。

美術館以外にアート業界で働くというと、わりと早い段階でギャラリーが思い浮かぶのではないかと思います。あと思いつくところでは、こんなところでしょうか。↓

・アーティストのアシスタント
・オークション会社
・アート系のショップスタッフ
・百貨店の美術品販売
・貿易会社や輸送会社の美術品部門

「ギャラリー自体、敷居が高くて入ったことない」という人もいるかもしれませんが、別にそんなことはないので気になったら入ってみてください。どこも入場無料です。私は美大生の友人が多く、展示を観に行く機会があったので、はじめからあまり抵抗なく出入りしていました。


ギャラリーの求人を見つけるには

有名どころではネットTAMキャリアバンク↓に芸術系の求人が掲載されています。まずはこちらで検索するのが定番です。

また、ギャラリーのウェブサイトでひっそり募集をかけていることもあります。気になるギャラリーがあるなら、定期的にチェックしてみましょう。

ギャラリーの多くは個人経営で小規模なスタッフ構成なので、ギャラリー(オーナー)との相性が非常に重要です。ギャラリー側もそれを重視している場合、「ギャラリーならどこでもいい」という人をはじくためにも、「わざわざそのギャラリーの個別サイトにアクセスして応募してくる人が欲しい」という意味合いが読み取れます。

そして、ギャラリー界隈の業界は意外と閉鎖的でオールドファッションです。つまりコネクションが武器になるところです。アート系の仕事をしている知り合いがいたら、仕事を紹介してくれるよう満遍なく頼んでおくべきです。一般には募集していなくても、ひらりと舞い込んでくることがあります。


プライマリー、セカンダリーとは?

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ギャラリーにはプライマリーとセカンダリーがあります。
プライマリー(一次市場)は、アート作品が最初に世に出る時のマーケット。つまり、アーティストの作品がギャラリーやアートフェアを通して販売され、最初の持ち主に渡るところを指します。

セカンダリー(二次市場)は、アート作品が最初の購入者の手を離れて転売される時のマーケット。オークションはこちらに当たります。セカンダリーギャラリーの場合、オークションや個人コレクターから価値ある作品を買ってきて、それを別の人に売って利益を得ます。

基本的にセカンダリーのほうが儲けが安定しています。プライマリーのほうは、若手アーティストを発掘したいとか、自分の審美眼にかなう作品を紹介していきたいとか、アートにこだわりと熱意を持っている人が運営していることが多いです。


採用されたのに働けなかった話

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初めてギャラリースタッフに応募したのは大学院生の時。銀座の画廊でアルバイトスタッフを募集していて、面接に呼ばれました。オープンして5年程の、日本の若手アーティストをプロモーションするギャラリーです。

オーナー自らの面接で、細かい質問内容は覚えていませんが、特に圧迫面接とか適当とかではなく、履歴書に沿ったごく普通のバイト面接だったと思います。

その場で、「採用するので来週くらいから来てほしい。詳細は別途連絡する」と言われ、晴れ晴れとした気持ちで帰路につきました。

ところが、翌週になっても連絡がないため、メールで問い合わせましたが返信なし。電話をかけても応答なし。結局連絡がつかず、こちらとしては為す術がなくてバイトの話が流れてしまいました。

「採用って言われたのに、なぜ?」という疑問、そしてモヤッとした気持ちでいっぱいでした。

思い当たるとすれば、採用と言われて帰る間際、「そういえば運転免許持ってるよね?」と聞かれ、「持ってないです」と答えたこと。作品の運搬などで車を使うことは多いので、それが理由で「やっぱや〜めた」と思ったのかもしれませんが、募集要項には書いていなかったし、業務内容も画廊での作品管理等しか記載されていませんでした。

万一「やっぱや〜めた」となったとしても、断りの一報を入れてくれてもいいのにな…と思います。不採用なら他のアルバイトを探さないといけないし、採用と言われた以上いつまで待てばいいのかわからないし、本当に不親切で、裏切られた感じがして腹も立ちました。

今となっては、そんな勝手なオーナーのもとで働いたらもっとイヤな思いをしそうなので、始まる前に関係が切れてよかったと考えています。この画廊は今でも繰り返し求人を見かけるので、人が定まらないのだと思います。

しかし当時は、この一件でギャラリーというもの全体に対して不信感が募ってしまい、全く別のバイトを始めることにして、しばらくアート関連の仕事から距離を置いていました。


面接で落とされた話

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20代後半になって、「やっぱりアート業界で仕事をしよう」と決意し、転職活動を始めました。

2つめに面接を受けたギャラリーに採用されたのですが、1つめは撃沈しました。なにしろ求められているレベルに到達していない感があり、面接中に「これは落ちたな」とヒリヒリ感じていました。

六本木エリアにあり、海外のアートフェアにも常連の近代的なギャラリーで、海外とやりとりをするスタッフを募集していました。私は英語にそれなりに自信があったので応募したのですが、途中から面接が全て英語で進められ、予想外の出来事にしどろもどろになってしまいました。

オーナーは日本人なのですがネイティブ並みに英語ペラペラで、説明も全部英語。面接って、ある程度質問を予想して回答を用意していくじゃないですか。準備していた答えはあるものの、とっさに日本語を英語に変換することができなくて、もどかしい気持ちのまま不完全燃焼で終わりました。

まあ、もっと英語ができたら、あるいはもっと準備がよくて英語の回答も用意できていたら、期待に応えられたんだと思いますが…。いずれにせよ当時の私の実力では歯が立ちませんでした。

オーナーはかなり若く見えましたが非常に感じがよく、頭の回転も早くて、とても優秀な人なのがわかりました。展示作品の解説もしてくれたのですが、作品も素晴らしいものばかりだったので、メンバーになれなかったのは残念です。

ただ背伸びしてうっかり入社していたら実力不足で苦労したと思うので、妥当な判断をしていただいたというところでしょうか。また、いつもみんなでごはんを食べにいくなど、家族みたいな付き合いをするノリのようだったので、ビジネスライクな付き合いを好む自分とは合わなかっただろうなとは思っています。


結局は縁と相性

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冒頭でも書きましたが、ギャラリーごとに個性があり、働く環境は一様ではありません。また、多くの場合は少人数制なので頻繁に募集がかかるものではありません。

ネットTAM常連のギャラリーがいくつかありますが、人が居つかないような厳しい環境である可能性を疑ったほうがいいです。(もちろん、全てがそうだというわけではありません)

オーナーや他のメンバーとの関わりも密接になるので、気持ちよく長く働くためには相性がとても大切です。扱っているアーティストに共感できるか、応援できるかというところもポイントになります。

しっくりくるギャラリーで職を得るのはなかなか難しいかもしれませんが、ひょっこりご縁がいただけることもあるのがアート業界。覚悟がある方はぜひ諦めずチャレンジしてみてください。

後編では、実際にギャラリーで働いた体験談をお伝えします。


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