「諦めたら試合終了」じゃない!?

本屋に行くと目に入ってきた、『諦めの価値』というタイトル。「諦めない」が美徳とされるなか、「諦める」に焦点を当てた切り口に魅力を感じた。著者の森博嗣さんのエッセイは2つほど読んでいて、非常に興味深く読めたので、その期待もあって、手に取った一冊である。概要は以下の通り。

諦めは最良の人生戦略である。
世の中は何事も「諦めるな」という方向へ行きすぎである。時間は有限であり、誰もがいつかは諦めるときがくる。他者や自分に期待しなければ、不思議と成功に近づく理由とは。「頑張れない時代」を生きるための画期的思考法。

安西先生は、三井に「諦めたら試合終了ですよ」と声をかけたわけだけれど、「諦めきれないこと」が沢山ある私に、どう響くか、個人的な興味もあった。「諦める」ということをネガティブに捉えない文章はフラットで、新たな気づきと与えてくれた。同時に心に刺さる部分もあったわけだけれども。

以下、読んで印象に残ったことのまとめ。

●叶えたい目的:夢(期待すること)とは
夢…人生の目的(の近似値)
自由…自分がやりたいことを実現する過程や状況
自分が思ったとおりに行動できる状態
「夢=人生の目的」が存在し、かつそこに向かってアプローチする行為
=「自由」=「幸せ」
●諦めの対象
・目的:夢そのものを諦める。
・方法:現在の方法をやめ、別の方法を模索する
多くの場合、やりかけた作業によって、なにかしらのものが出来上がってくる、それに関わった時間が長くなり、費用をかけ、苦労を重ねるほど、出来上がった「やりかけのもの」を無駄にしたくない、という気持ちが大きくなるから、諦められない。多くの夢や欲望は、自分で気づきにくい別の目的が潜んでいることが多い。自分の動機を分析してみることとことん考えて、綿密に計画を立てたものを断念するなら、「諦める」ということができる。
例:「美人になりたい」→(根底には)人に褒められたい、羨ましがられたい
●諦めの極意=「わきまえる」こと=勝つための戦略
自分の能力や周囲の環境などを客観的に知ることで、無駄な労力をかけるまえに退く。期待している自分を自覚し、悲観的予測と柔軟な思考でいざとなればそれらを諦められるようにしておくこと。
諦める能力=次のステップへすぐに移れる身軽さ
諦めきれない時間は、判断を遅らせ、新しいものへの備えが間に合わなくなる。頭の硬さが、諦められない主な要因。「諦めた」と口にする人の大半は、諦めるほどのレベルに達していない。
→いつまでも「諦められない」状態が続き、未練がましく思っているのではないか、とも分析可能。諦めた人が諦めたことは「憧れること」。「ただ「やりたいなあ」と憧れているだけの段階では、「諦めることはできない」。
●「諦める」のに必要な能力
「諦める」=自分の感情をコントロールする行為であり、これが上手くできるようになれば、自分を思い通りにできる。いろいろな場面で有利な立場を得られる。諦めるためには、考えなければならない。考えていることを避けている状態が、「諦めない」という頑固な姿勢とも言える。大前提となるのは、「とことん考えること」。感情的な要素に左右されず、客観的、かつ巨視的、長期的に事象を捉える必要はある。諦める決心がついたら、直ちに判断し、実行する。実行したのちは、ぐずぐずと過去を振り返らない。次にやってくる問題を予測し、未来に備えることを優先すべき。
●「諦めず」成功するには…
少しでも確率の高いもの、あるいは期待値の高いものを選択すること。確率の高い方法を選び、地道に努力を積み重ねることが、最も期待値が高い成功への道といえる。
●そもそも…「諦める」は悪か?
・人は、他者によって救われることは実は稀であり、他者の援助はきっかけになるだけで、本人が本人を救うのである。
・自分の楽しみを持ち、自分がやりたいことが明確になるのなら、他者に勝つ
必要(諦める必要)などどこにもない。
・夢は夢のままぼんやりと思い描くだけで、その人は充分な「楽しみ」を享受
していることも多いので、その状況も悪くない。

仕事や趣味に使えそうな、特に印象深かった「書くこと」についての考えがこちら。小説家として文章を紡いでいる森さんだからこその言葉だけれど、私も「諦められず」うだうだ悩むこともあるので、そこはスパッと考えられればなと思った。

一度書いたものをのちほど読んでみると「少し違うな」と感じることが多いが、書いた時点では自分はそう考えていたのだと「諦める」。いつまで経っても完成しない。諦めなければ世に出すこともなく、埋もれたままになる。世の中に存在している作品は、全て、作家が諦めた結果。

全てが共感できるわけではないけれど、自分のモヤモヤを可視化してくれている一冊で、今回のエッセイも読んで良かったと思った。新しい価値観や気づきを与えてくれるから、やっぱり本は面白い。さあ、今度は、何を読もうか。

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