ボードレール「旅への誘い」試訳

(課題で提出したもの)

  いとしい子、いとしい妹よ、
  かの地での暮らしを空想せよ。
共に住むかの地での蜜月を!
  遊び、愛し、
  愛し、死ぬ……
お前のようなその国での蜜月を!
  空は曇る。
  太陽は湿る。
わたしの心は確かに見る、
  涙を抜けて輝くお前の眼を、
  そのままどこまでも移ろいそうなお前の眼を、
お前の眼に惹かれゆく謎を見る。

そこにあるのはただ、
秩序と美と奢侈と平安と官能と。

  歳月ときが磨く
  家具は明るく、
わたしたちの部屋を飾る。
  珍しい花が、
  その香りが、
僅かの竜涎香りゅうぜんこうに混ざる。
  どこまでも豪華な天井。
  どこまでも底なしの鏡。
東洋の華やかな文物、
  すべてのものがそこでは語る。
  密かに心にすべてが語る。
故郷の柔らかな言葉。

そこにあるのはただ、
秩序と美と奢侈と平安と官能と。

  眼を開き運河を見遣れ
  眼を閉じたあの船を
船の気質は放浪者バガボンド
  遠く地の果てから、
  くだらぬお前の望みまで、
船の目ざすはお前を満たすこと。
  すべて野も、
  運河も街も、
すみれの中に黄金こがねの中に。
  そうして日は沈む。
  そして、世界が眠る。
暖かな輝きの中に。

そこにあるのはただ、
秩序と美と奢侈と平安と官能と。

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