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胸の中のシャッターを切って焼き付けよう

あなたがくれたこの風景 愛しく思っています
胸の中のファインダーでずっと眺めていたい

いつもここにいるよ 陽だまりに触れてるみたい
ほら あたたかくて どこか恥ずかしいような
いつも側にいてくれたの? 僕も少し強くならなきゃね
あなたを守れるように やさしくいられるように

秦基博 「風景」より


まだ娘が生まれていないときの話だ。

息子が生まれてもうすぐ2歳の誕生日を迎える。息子の誕生日は3月、奥さんの誕生日は11月。

前年の奥さんの誕生日に、僕は奥さんに1眼レフカメラを送った。大きくなっていく息子をなるべくたくさん残しておきたかったし、奥さんも欲しがっていたから。

そして、もう1つ大きな理由。奥さんと息子の誕生日の間である1月にハワイ旅行に行くことになっていた。ここで写真を撮るのにもいいんじゃいかと思ったのだ。

70,000円近くの大金をはたいて買ったのは、Canon キャノン EOS Kiss X3ダブルズームキット。当時最新の一眼レフカメラだった。めっちゃ奮発したよね。

プレゼントをあげた時にはものすごく喜んでくれた。喜ぶ奥さんを見るのは僕の幸せの一つなんだ。


奥さんと僕は息子の写真をたくさん撮り始めた。一眼レフカメラといえばピントの合わせ方で周りをボカしたりできる。息子の泣き顔や泣き顔(息子は泣いてばかりいた)の写真を撮ったりするのが楽しかった。

2DKのハイツで家族3人。狭い我が家だった。それでも思い出をたくさん残そうと写真を撮りまくった。

そして、ハワイ旅行。成田空港からずっと僕は写真を撮り続けた。写真を撮ることが楽しかった。息子の写真を、奥さんの写真を、思い出をいつでも思い出せるように。

僕はハワイでも常に一眼レフをぶら下げて行動した。海、ダイナモンドヘッド、パンケーキ、なんでもかんでも写真に撮った。それはもう腱鞘炎になるくらいにね。

お気づきだろうか?

そう、奥さんにプレゼントしたはずのカメラを僕は自分で使いまくっている。奥さんへのプレゼントということも忘れて我がもの顔で。

デジタル一眼レフはすっかり僕の首が定位置となっていた。それでも奥さんは何も言わずに写真を撮らせてくれた。

だから、当時の写真に僕は異常に映っていない。僕が撮影する係で被写体は奥さんや子供だからだ。

あと、もう一つ。奥さんは片目をつぶるのが苦手なんだ。ファインダーは左目を瞑って、右目で覗くのが一般的。だけど奥さんは左目だけを瞑ることがデキない。右目を瞑って左目で覗くのがかろうじて。

そんな感じでハワイで僕が被写体となっている写真はなかなか少ないということになったのさ。

 

ハワイの写真はいつ見返しても楽しかった思い出がよみがえる。日本に帰ってきて写真の整理や思い出をブログにまとめたりしていた。

そんなことをしていら、あることをひらめいた。息子の2歳の誕生日はもうすぐというところで、奥さんを驚かせるサプライズ。

「一眼レフで撮った写真で動画を作ってプレゼントする」

閃いたなー、俺。

地味にサプライズが好きな僕。奥さんを喜ばせるのが好きな僕。自分自身に酔いしれているだけかもしれないが、奥さんを泣かせるような動画を作りたいと思ったわけだ。

素材はたくさんあるし、パソコンで昔スライドショーも作ったことがある。泣かせるスライドショーを作るぞと、一眼レフで撮った画像をまとめるぞと僕は意気込んで作りはじめた。


ちょうどその時にハマっていたのが秦基博。シンガーソングライターで「ひまわりの約束」なんかが今では有名だよね。あの声とメロディにハマって毎日聞いていた。

実は僕、元バンドマンだ。ベースでプロを目指していた。(甘すぎる未来)一応作詞作曲なんかやってて、音楽には結構うるさい。

バンドマンの当時聴いていたのは洋楽が中心で、バンド系音楽以外は聞かないという偏食主義者だった。

バンド系音楽というのはその楽器パートの色がないと納得がいかなくて、シンガーソングライター?何それ、おいしいの?って感じでまったく聞かなかった。

僕も年を取ったもんだ。ミクスチャーじゃなきゃ音楽じゃねー、ヘヴィロックじゃなきゃ音楽じゃねー、って言ってた僕もしっとりとしたバラードがやたら聞きたくなっていたんだ。

子どもが生まれたせいかな?バンドをやめてから月日が経ったせいかな?この頃やたらと涙もろい。

そして秦基博の「風景」という曲に出会った。Youtubeで公開されていたプロモーションビデオが、ちょうど一眼レフカメラを持っていてやたらと共感した。

この「風景」という曲に乗せて、スライドショーを作ろう。そう決めて取り組んだのだった。何かを作るときは音楽からイメージしたほうが作りやすい。

ブログと同じく、スライドショーや動画編集には構成が大切だ。なんとなく絵コンテ的なものを書いてみる。

一眼レフカメラを持つ僕が歩く(動画)→カメラを構えて撮る(動画)→息子の写真、みたいな感じでストーリーチックにしてみたら面白そうだ。動画も入れるということで、友達に動画撮影を依頼した。

「ちょっとリフレッシュしなよ」とかいって、奥さんと子どもを奥さんの実家に預けて、その間に動画撮影と編集作業を行った。それこそ睡眠時間削って2日間くらいで動画編集を仕上げた。

通しで見てみる。我ながらいい出来だと思った。そりゃそうだよ。奥さんを泣かそうと思って真剣に作ったんだから。まず第一に気持ちがノッっている。


そして、息子の誕生日。

息子の誕生日なんだから息子が主役なんだけど、子どもの誕生日って僕の奥さんがお母さんになった日でもある。僕がお父さんになった日でもあるし、奥さんがめちゃくちゃ頑張った日でもある。

そう考えるとすんごくめでたい日じゃん。奥さんをねぎらいたくなるじゃん。

「だから、動画を作ったんだ。ちょっと見てくれよ」とパソコンに案内した。

もう奥さんはビックリだよね。そんなのいつの間にやってたの?ってそりゃ自分のために旦那が頑張ってくれてたらうれしいはずさ。

秦基博の「風景」にのせて、僕が登場する。写真を構えて撮影する。そのたびに息子の笑顔が、息子の成長が写真で登場する。ハワイの思い出、息子の生まれた頃の写真、家族3人の写真。

「ありがとう、ありがとう。わだしのために、こんなに素敵なものつくってくれて」

奥さんは喜んで泣いていた。その後ろで僕の目頭も熱くなっていた。うれしいときにも人って涙が出るんだね。


あなたといつか見た風景 なおさら愛しくなるよ
胸の中のシャッターを切って焼き付けよう

いつもここにいるよ 陽だまりに触れてるみたい
ほら あたたかくて どこか恥ずかしいような
いつも側にいてくれたの? 僕も少し強くならなきゃね
あなたを守れるように やさしくいられるように



追記

こんな記事を書こうと思って、昨日の夜に当時作った動画を家族で見たんです。久しぶりでした。何年ぶりでしょうか、その後1回くらいしか見ていませんでしたから。

今見てみると僕の登場が異常に多くて、僕のプロモみたいでした。一眼レフも使いこなせてないし、ボケボケの写真がたくさん。

奥さんも僕ももう泣かずに、笑いながら見ることができました。「懐かしいね、かわいいね」なんていいながら。

でも、あのときの涙が出るほどの感動したことは鮮明に思い出すんです。写真ってそういう効果がありますよね。


あ、そうそう、今は4人家族です。あの年の9月に娘が生まれました。

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