犬婆(いぬばあ)がくれたトッピング
恥ずかしい話だから、ヒカないで聞いてほしいんだけどいいかな?もう時効だしいいよね?
「大学1年生にしてお小遣いもらってました!さーせん!」
はい、大変お恥ずかしいお話です。大学1年生ともなると、さすがに小遣いをもらう人はほとんどいなくなる。大人になれば自分のお金は自分で稼ぐのは当たり前だ。
僕は実家暮らしで比較的裕福な家庭に育った。高校3年生の冬からバイトは始めてたんだけど、大学生になってもちゃっかり小遣い月1万円もらっていた。
高3からの月6千円から値上げまでしたんだよ。その上携帯代まで親にせびってた。マジでかっこ悪いね。
大学生にして小遣いをもらうことが恥ずかしいという認識がなかったんだ。これに気づくのはバイト先の気になってる女の子と会話だった。
何かの会話の中で普通に僕は、「親から小遣いをもらっている」っていう話をした。
「え!?・・」
「うそでしょ?・・」
「間違いなく〇貞じゃん・・・」
という顔をされてハッとした。勝手にイメトレしていたその子とのアバンチュールは粉々になったことを。「ど、童〇ちゃうわ」という顔をしたかったけど、明らかに恥ずかしい顔をしていたんじゃないかな。
「さすがにバイトしてるなら、小遣いもらわないほうがいいんじゃないかな」とかわいくダメ押しされたなので、正直に恥じて小遣いをもらうのはやめることにした。
小遣いをもらうのをやめた僕は、そこそこお金を節約するようになった。バイトで稼げるのは月6万くらいだったから、携帯代とか洋服代とかに使っていくとあまり余裕はない。
特に昼ごはんにかけるお金は何かもったいない気がして、自宅で食べるようにしていた。そもそも起きるのが昼ぐらいで超夜型生活してたのもある。
大学に通うのは週2~3日程度。非常に優秀な先輩を見つけたので、テスト対策をすれば単位を取るのは余裕だと分かっていた。だから、ろくに学校には行かなかった。
それでも、学校に行くときは昼飯を食べことになる。昼飯を食べる選択肢は学食1、学食2、学校付近のパスタかカレーが多かった。学生街なのもあり、500円以内で食べれる場所はそこそこあった。
なかでもやっぱり学食は一番安いから一番行ったかな。でも学食1には行きにくくなってしまった。少し話は脱線するけど聞いてほしい。
僕は高校・大学が同じ親友のヨシアキとよくつるんでいた。ヨシアキはシャイな癖に人がいると調子に乗る面白いやつだ。ヨシアキはいつも突拍子もない無茶をして笑わせてくれる。
何も言わずに真昼間から立ちションしたり、タバコをくわえてブラッドピットの物まねをしたりする(どうみてもロバート・デ・ニーロに似ていた)
そんなヨシアキと一緒によく行ったのは学食1だった。学食1には学食2にはない特別なメニューがあった。それはフルーツポンチが100円で盛り放題というシステムだ。
よくフルーツポンチは食べてたんだけど、ヨシアキが例によって調子に乗ってフルーツポンチを山盛りにかけていった。そして、当然のように皿からお盆の上にこぼれていく。
もはや最初からお盆がお皿なんじゃないかってくらいにビシャビシャだ。若気の至りってやつだね。
「あんた!考えたらわかるでしょ!!!」
ふざけてた僕らを待っていたのは、レジのおばさんのマジ切れだった。そりゃそうだよね。若気の至りじゃすまないこともある。
ほぼ毎日見かけるおばさんが小刻みに震えるぐらい怒っているわけだから、さすがに「すいません」と言ったが、おばさんの怒りは収まらなかった。
僕は連帯責任なのか分からないが、しっかり名前を聞かれもう二度としないように念を押された。もう、気まずいよね。僕らにとって学食1は立ち入れないサンクチュアリになった。
そんなこんなで僕らのフィールドの中心は学食2になった。学食2にはフルーツポンチシステムはない。代わりにあったのは調味料かけ放題だ。
塩・胡椒・醤油・ソース・ラー油・マヨネーズ・一味・七味なんかが、いくらでもかけられるように受け取り口の近くに置いてあった。
そこで、僕が開発した節約飯が納豆かけご飯だ。確かご飯大盛が120円・納豆50円・卵50円。そんなに節約する必要はなかったはずなんだけど、調味料で味変もできるのでよくそれを頼んでいた。
多分学食自体もあまりおいしくなかったんだろう。カレーやラーメンは海の家で食べるのと同等か、海の家という立地のアドバンテージを引けばそれ以下だ。
おすすめの食べ方はラー油+一味、これはマメな。(納豆だけに)
学食で配膳するおばさんも珍しかったのだろう。いつもご飯大盛・納豆・卵だけを頼む学生というのは意外と少ない。そりゃそうだ、まがりなりにも学食にはメニューはたくさんある。
日替わり定食やラーメンだって何種類もあったはずだ。なのに、ご飯大盛・納豆・卵ばかり食べるなんて、なんとなく節約してるヤツではなく、「お金がホントにない学生」と映ったに違いない。
僕がいつものように、例のやつを買って食べようとしたら、おばさんがコロッケをお皿に一緒にのせてくれた。僕にはなんのことかわからず、「頼んでませんよ」という顔をしたが、おばさんは「いいのよ、早くいきなさい」とジェスチャーをした。
ヨシアキのいるテーブルに戻ると僕はヨシアキに言った。
「犬婆(いぬばあ)がなぜかコロッケくれたんだけど」
犬婆というのは、僕だかヨシアキがつけた学食のおばさんのあだ名だ。だみ声でいつも元気。全然犬には似ていないんだけど、犬っぽい。
もし僕の母親だったら、エロ本を部屋で見つけて、「あんた、こんなんが趣味なの?」と、ソーシャルディスタンスなんか無視してくるようなおばさんでかわいらしい。
ヨシアキはコロッケを見つめると、「お前が納豆ご飯ばっか食ってるからだろ」と言った。
僕はやっとそこで気づく。ただ僕は納豆が好きで、少し節約したかっただけでしかない。バイトでも10万近く稼げてきていたし。
ウチのばあちゃんが「納豆は栄養があるんだよ」と、2日に1回は念仏のように教えてくれていたから食べていただけだ。だから、僕は今でも納豆と梅干は栄養があると信じている。
「白いご飯とコロッケは最高だけど、納豆ご飯とコロッケはいまいち合わないな」と心の中では思ったが、おかずがあるだけでランチは彩られた気がして嬉しかった。
それからというもの、時にはシャケの切れ端だったり、サバの塩焼きの切れ端だったり、ちょっとしたオマケをもらえることがあった。それは、ぼくだけではなくヨシアキにもあって、ちょっとずつ犬婆とは話をするようになったんだ。
犬婆にしたってうれしかっただろう。自称イケメン2人(童〇ちゃうわ!)が話しかけてくれるんだから。
僕らは犬婆に感謝していたし、話すことも楽しかった。だから昼ごはんの中心は完全に学食2になっていた。
その年の学園祭に話はうつる。僕とヨシアキは軽音サークルでバンドを組んでいた。校舎内でライブをしたりするんだよね。その、打ち上げは校舎内でまずはお酒を飲まずにやることになった。
買い出しをまかされた僕とヨシアキはあることをひらめく。犬婆のとこで学食色々もらってこようと。
サークルで集められた数千円を持って学食に行き犬婆に相談した。「このお金でサークルの打ち上げ用に学食適当に盛り合わせてもらえませんか」と。
学食のおばさんにそこまでの権限があったかどうかは分からないけど、犬婆は快く引き受けてくれた。
唐揚げ・ポテト・サラダ・チャーハン・焼きそば・納豆・・・
そう、「もらった適当な盛り合わせの中には納豆も入っていた」というのがこの話のオチだよ。
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