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爪あと。

かあちゃんは、夜に爪を切る。

幼少期、なんで、夜に爪を切るの?
と聞いた事がある。

かあちゃんは、
親の死に目に…会えなかったからさ。

そう、伝えてくると、
爪の切る音が、パチン、パチンと、
響いて聞こえてきて、怖かった記憶がある。

かあちゃんの両親の話は、
高校生の時に聞いた。

交通事故で2人共、死んだそうだ。

その時に、かあちゃんの爪を切る理由を知る。

親の死に目に、会えなかったからこそ、
あえて、夜に爪を切っていたのだ。

それは、月日の流れの中、伸びてく爪。
生きていれば、誰だって爪は伸びる。

そんな爪を見ながら、やれやれと、
亡き両親の事を、遠い昔の様に思いながら、
かあちゃんは、夜に爪を切るのだ。

そう、親の死に目に、会えなかったから。

私は、絶対に夜には爪を切らない。

あの幼少期、かあちゃんから、
悲壮感が漂ってて、怖くて、嫌で、
明るいうちに、爪を切る様になっていた。

でも、爪を切ると思い出してしまう。

かあちゃんと同じで、爪が伸びてきて、
かあちゃんが死んで、どのくらいになるのだ?

やれやれ、歳は取りたくないものだ…。

夜に爪を切らなかったおかげか、
かあちゃんの死に目に会えたんだ。

ん?会えたのか?いや…あと少しの所で、
間に合わなかったではないか?

でも…あの時はまだ希望があった。
生き返るかも、しれないと信じてた。

うん。そうなんだ。それでいいんだ。

色んな病や薬のせいか、
爪は変形し、色も不健康そのもの。

でも、生きてる限り、
爪はそのまま伸びてくるのだ。

こんなんでも、生きてるんだな。
パチン、パチンと爪を切っていく。

かあちゃんの、
爪を切る音と同じなのに…
同じはずなのに、不思議だ。
全然怖くならないのは何故だ?

やはり、
夜に爪を切るのは、良くないな。

そう、つぶやきながら、
爪切りをそっと引き出しにしまう。

指で、爪をなぞって、
さっきまであったはずの爪の痕跡が、
感触として残る。

いつも思うけど…。
爪って、すごく存在感かある。

爪を切って、その存在感を思い知る。

爪を噛む人っているよね。
そんな人は、こんな感覚にならないのかな?

クセと言うか、
私には、なんらかのストレスがある?
イライラしてるのかな?
だから、爪を噛んでしまうのか?
と推測してしまう。

きっと、無意識に爪を噛んでるんだよな…。

意思表示の表れなのかもしれない。

何かを思って、爪を切ったり、噛んだり。

爪って、
体の中で必要なアイテムなのかもしれない。

私は、
無き爪の面影を探して、指でなぞりながら、
切ったばかりのざらついた爪の断面を感じる。

なんだか気持ち悪く、
でも気づいたら、その断面は、
ざらつきがなくなり、なめらかになる。

それが不思議で、
いつの間に、気づかずにいるのだ。

私も、日々過ごす中で、
研ぎ澄まされて、ゆきたいものだと、
爪に嫉妬してしまうのである。

爪よ、お前は不健康そうで、
がだがたで、色がどす黒くて、気持ち悪いけど、
案外憎めなくて、いいヤツだよな。

オレ、鈍感だからお前が、
いつの間にか成長して、伸びてるの、
気づいてやれなくて、すまんな。

一体、いつ伸びてるのだ?

その瞬間を、見てみたい。

そんな私は、
生きてるうちに、いつの間にか、
その一瞬でも、爪あとを残したい…。



なんて、全くもって思わない人間。

のびしろばかり、気にする、
まるでネイルアートの様な、
尖って個性的な人に憧れてしまう。

その不自由が、好きなひねくれ者であった。


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