見出し画像

優しい隣人。

これは、私が社会人になって一人暮らしを、
したばかりの頃のお話です。

私は、人付き合いが苦手である。

でも、その一人暮らしの部屋の隣の部屋に、
とても優しいおじさんがいたのだ。

会えば、優しい顔で挨拶もしてくれた。

乳製品の製造の仕事をしていて、
あまった、乳製品をわざわざ毎回届けてくれ、
社会人なりたての私には、とても助かった。

おじさんも一人暮らし。
詳しくは、全く知らない。

ひねくれ者に成り下がった私は、
自分から何かを、知ろうとはしなくなった。
傷つきたくないし、傷付けたくないからだ。

ある日、仕事から帰ろうとしたら、
黄色いテープみたいなのが張り巡らして、
どうにも、こうにも、部屋に入れなかった。

明らかに、
警察の人達が入り混じり、騒然としてた。
私はしばらく、
状況を掴もうと、うろうろしていた。

そしたら、
マスコミと野次馬がたくさんいる中で、
事情の知っている、おばさんがうるさく、
周りに、これは殺人事件だ!と叫んでいた。

つまりだ、あの部屋で人が殺された。
犯人は、住人の優しいおじさんだと言う。

…うそだ…あのおじさんが?
このおばさん…勝手な憶測を言いやがって!
なんだよ!…どうなってるんだよ!

…ってか、オレ部屋に入れないのか?

黄色いテープの前で、
警察の人が、見張り役なのか知らないが、
険しい顔で、ビシッと突っ立てた。

その人に、
あの…すみませんが…
あそこの隣に住んでる者なのですが…
中に入れないんすか?帰りたいんすけど…。
と恐る恐る訴えてみた。

警察の人は、怪しんでいたが、
ちょうど、郵便物を持っていたので、
確認してもらって、警察の人は無言で、
険しい顔のまま、黄色いテープの一部を、
広げて中に入れてもらった。

隣の部屋には、キレイに
ブルーシートで囲まれていた。

そして、色んな人の声がうるさく飛び交い、
私の部屋の壁からも、それは聞こえた。

私は、テレビを持ってないし、
メディアも知らないのである。

だが、職場の人達に、
ご丁寧に、事件の真相を教えてくる。

隣の優しいおじさんは、
どうやら、ヤクザと言われる人に、
精神的に追いやられていたそうで、
自己防衛の為に、犯行を起こしたそうだ。

新聞紙を見せつけられて、
顔写真が載っていた。

いかにも、優しいおじさんの顔つきが、
犯罪者の顔に仕立てられていた。

そして…そのヤクザと言われる人の顔…。

あっ!この人…よく近くの公園で、
小さい子供と、遊んでいたお父さんだ!

この人が…えっ?
真面目な子煩悩な、お父さんだと、
いつも、微笑ましく見ていたのに…。

新聞紙を読まない私は、これは、
なんらかの陰謀なのだと、錯覚した。

この新聞記者は、嘘つきだ!
新聞を売る為に、利用して捏造して、
事を大きくして、みんなを騙してんだ!

私は、あの隣の優しいおじさんも、
公園で見かけていた、お父さんも、

どうしても、悪く思えなかった。

でも、真実はわからない。

優しいおじさんは、
警察の圧力で、やってもいない事を、
やったと言ってしまうかもしれない…。

ヤクザと警察って、実は裏で繋がってて、
あの優しいおじさんを犯人に仕立ててる。

マスコミにも、警察の圧力がかかって、
間違った報道をされている可能性がある。


あくまでも、私の勝手な憶測である。

でも、あの乳製品メーカーの商品を、
見ると、あの優しいおじさんの顔を、
どうしても、思い出してしまうのだ。

もっと、
隣人として仲良くすべきだったのか。

あのおじさんは、きっと深い闇があり、
私には到底理解できない、苦労があり、
それがあるからこそ、優しい人なのだ。

いつも、ただの隣人の私に、見返りを、
求めずに、乳製品をいつもくれたんだ。

あのおじさん、今何してんだろう…。

自己防衛だとしたら、
少しは刑は軽くなっているのかもしれない。

会いたいな…。

あの、優しい顔に、私は幾度と助けられた。
あの、おじさんのおかげで、乗り越えれた。

辛い仕事も、食事までも、あのおじさんが、
隣にいてくれたからこそ、今の私がある。


あの時は、
本当にお世話になりました。

お礼も言えずに、
こんなに時が過ぎてしまい、すみません。

本当に、申し訳ありませんでした。

そして、本当にありがとうございます。
感謝の気持ちでいっぱいです。

あなたに、出会えて、私は幸せでした。

人付き合いも、なかなかいいものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?