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同期の末路

20代半ばに
入社した会社に同期のヤツがいた。

同じ日に入社して、
なんとなく仲良くしていた。

ヤツはとてもチャラい。
そしてナルシストであった。

でも、仕事はきちんとしていた。

働いて一か月が経った頃、
私達の歓迎会をしてくれると、
会社が終わったら予約していた、
居酒屋にみんなで行った。

はじめは、二人とも自己紹介をし、
その場は、少し質問大会になっていた。

私は、自分をさらけ出すのが嫌いである。
どんな質問ものらいくらりとかわす。

でも、ヤツはとても社交的で、
聞いてもいない事でもペラペラと話す。

両極端な二人であった。

そのうち、ただの飲み会になっていた。
そしたら、ヤツが抜け出そうぜと、
私の腕を持ち上げ、そのまま抜け出した。

いいのか?こんな事して…。
ヤバいんじゃないか?

不安でたまらずヤツに言う。

ま、大丈夫っしょ。
アイツらだいぶ酔ってたし。
オレらいなくなった所で、
何も騒がないって。
明日になれば、
ちゃんと許可とって帰った、
って言えば問題ないっしょ。

こいつ、なんでそんなに、
あっけらかんとしてるんだ?

まぁ…いいか。
んで、これからどうするんだ?

と聞いたら、
飲み直そうぜ。
オレの知り合いの飲み屋あるんだ。
そこにお前を紹介するよ。

そこは、ちょっと町外れにある。
隠れた店であった。

私なら絶対に行かない。
そんな、なんか独特な雰囲気の店だった。

ヤツは、手慣れた様子で、
こっちこっち、ここ座っていいっすか?
と店主らしき人に話して、
ドシッと座る。
私も恐る恐る座る。

マスター水割り二つお願い!
と勝手に注文して、
ヤツはタバコを一気にスーッと吸い、
煙をはきながら、いやーつまんなかったな。

と私に聞いてきた。

確かに、面白くなかったな。
変な事ばかり聞いてきてさ、
オレそう言うの苦手なんだよ。

ヤツは確かに…と笑ってた。

私は、尊敬の眼差しで、
でもお前はまわりに馴染んでたぞ。
なんかすげーなーって思った。
オレにはとうてい無理だわ。

そう言うと、
身を乗り出して近づいて呟く。

内緒だぞ!
オレ、ホストしてんだわ。
だから、あーゆーの慣れてんの。
相手をおだてるの得意なんだよな。
性に合ってるんだよ。

なるほど…納得した。

お前なんで、就職したんだ?
ホストじゃ食ってけないのか?

そう聞くと
ヤツはタバコを揉み消し

いや、余裕で食ってけるんだな。
でもよ、ホストしてっとなんか世の中と、
ズレが生じてしまうんだよなー。

ほら、金銭感覚も違ってくるしさ、
夜の仕事は、なんか、こー闇の中って感じ?

客の取り合いや、汚ない人間達の、
溜まり場でよ、金が全てを狂わせてるんだ。


ヤツはまた、タバコに火をつけ、
水割りをぐいぐい飲み、

そんなとこをよー、
どっぷり浸かってるヤツ、
たーくさん見てきてよー。
オレは、そんなヤツになりたくないって、
思えてきたんだよなー。

だから、ホストは週末だけにしたんだ。
後は、今の会社で頑張って働こうって。
この会社入ってからよ、
やっぱり金の重みがちげーんだな。

本当の金の価値は、
ホストではわからないのさ。

タバコの灰が落ちてもかまわず、
遠くを見つめて語る。

こうやってよ、朝から働いてたらよー、
給料日になった時にもらう金は、
ものすごーくキレイに見えんだよ。

確かに金額は比べられないくらい低い。
だけどよ、金の価値とオレの価値が、
ぜーんぜん、ちげーんだよ。

ヤツはうーんと体を伸ばして、

だからさぁオレ頑張るよ。
いつかホストも辞めてーし。
真っ当な人間にオレはなるんだって。
そう夢見ちゃってるわけよ。

私は、相槌をうちながら、
偉い人の講義に来ているみたいな、
そんなすごい哲学的な事が起こっていた。

お前、すんげー人間出来てるな。
オレ感動した…いやすごい。

俺なんかこれっぽっちの金しか
もらえなくてそんな金の価値なんて、
思ってもいなかった…情けない。

正直、最初にお前見た時、
コイツ社会を舐めてんのかって
思ってたけど…すまん…謝る。

そう言うと、
ひっでーなー。と笑ってた。

それから、数ヶ月経った。

ヤツは会社に来なくなった。

夜の闇の中に消えてしまったのだ。

深夜に一度ヤツから電話が来た。

ヤツは酔っ払っていて、
お前いつまでそこにいんだよー。
バカバカしくなってこないか?
ムカつく上司にヘコヘコ頭下げてよ、
先輩には、仕事押し付けられるし、
あいつらの顔見てるとムカつくんだよ。
やってらんねーっつーの!
と叫んでる。

人は環境により変わってしまう。
もちろん、
夜のお店が悪いとは言わない。
ホストやホステス、その他の人達は、
誇りをもっていいと思うのだ。
お客さんを楽しませたり、気持ちよく
させる為には、たくさんの努力と
根性と気を使わないと、
やっていけない世界だ。

私はそんな人達を尊敬している。
なぜなら、わたしには無理だからだ。

ヤツはやはり、
ホストが性に合ってるだけである。

色んな人間がいて、
色んな職種があって、
それで、この世は回っている。

それは、時代と共に変わったりもする。

だが、人間の本質は変わらない。
需要があるから、成り立つ世界なのだ。

例えば、メイド喫茶だって同じ。
アニメ界も同じだ。

時代と共に、その時を求めている。

あの屈託のない笑顔は武器になる。
きっと、そんな笑顔を求めて、
彼の所に通う人達がいるのだろう。

そんな人達を救っているアイツは、
とても素晴らしい人間だと、
私は、今もそう思うのだ。


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