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白いギター

私が中学生の頃の淡い思い出である。

何に憧れたのかわすれたが、
ギターを弾くのがカッコ良く思えた。

当時の同級生に、
ギターが上手いヤツがいた。

私はそいつの家に行き、
ギターを教えてもらっていた。

中学生になり、
お小遣いをずっと貯めて、
いつかの時にと、かなり貯め込んだ。

どうしても、ギターが欲しかった。
近くの楽器屋でギターを見つめて、
その値段に肩を落として帰るのだ。

お小遣いを貯めた所で、
ギターなんて手の届かないのだ。

同級生の家でギターの練習をして、
その同級生に相談した。

すると、同級生が、
従兄弟が就職するから、
引っ越しするんだって、
それで引っ越しの手伝いしてくれたら、
お小遣いくれるって言ってたぞ。
お前の事、聞いてみるか?

と言うので、ぜひと頼み込んだ。

なんと、その従兄弟さんが了承してくれ、
早速引っ越しの手伝いに行く。

トラックに荷物をひたすら運び、
荷台に乗り、引っ越し先まで行き、
そこから、また部屋へ荷物を運ぶのだ。

なんとか終わり、
その従兄弟は、白いギターを
私にくれたのだ。

実は引っ越し作業で気にはなっていた。
ポツリの無造作に置いてあったのだ。
その白いギターが私には魅力的に、
見えて羨ましいなぁと思っていたのだ。

そんな様子を従兄弟は見てたのだろう。

お前、このギター欲しそうにしてただろ?
ここのアパートじゃぁギターなんて、
弾いたら近所迷惑になるだけだし。

お前にやるよ。聞いてたんだ。
お前がギター欲しくて、
引っ越しの手伝いをしたがってたって。

私は同級生にもその従兄弟にも、
本当に感謝した。
しかも、その従兄弟は、
別にお小遣いもくれたのだ。

ギターの弦、そろそろ変えないと、
切れちゃうから、新しい弦買った方がいい。
そう言ってお小遣いをくれたのだ。

泣いた…私もこんな大人になりたい。
そう心に誓ったのだ。

その従兄弟に深くお礼をした。

同級生と一緒に楽器屋に行って、
白いギター用の弦を教えてもらい、
それを買って、
同級生に弦の付け方を教えてもらう。
同級生は慣れた手つきで弦を付け替え、
ボロンと鳴らしながら、
チューニングをしている。

もぉー!すんげー!カッコいいぞ!
と同級生が大人びて見えた。

私の白いギター。
教えてもらったコードを弾く。
味のある音色に、おー!と興奮する。

だか、問題があるのだ。
私の家はボロアパート。
ギターなんて弾いてたら、
かあちゃんが発狂するのは目に見える。

同級生に頼み、同級生の家に、
白いギターを置いてもらう事にした。

それから同級生のおかげで、
難易度の高いFコードを、
なんとか弾けるようになった。

そして、簡単なコードの曲を
弾けるようにまでなった。

同級生も喜んでくれて、
すごく嬉しかった。

そんな日の夜中である。

消防車のサイレンの音が聞こえた。
かあちゃんはバケツに水とタオルを入れ、
急いで向かう。私も後を追う。

そこには、あの同級生の家が燃えていた。

かあちゃんは、
なんとか脱出し火傷を負った同級生一家を、
濡らしたタオルで手当てをしていた。

かあちゃんの迅速な対応に驚いた。

私はただ燃えさがる家と、
消化に励む消防士の姿を見て、
かあちゃんの手当てを受けている、
同級生と目が合った。

そのうち救急車が来て、
同級生一家が運ばれていった。

かあちゃんは、
バケツを持って、帰ろうと帰った。

次の日、同級生は来なかった。
病院に入院してるとの事。
かあちゃんの手当てが良かったのか、
わからないが、同級生一家の
火傷の症状は最小限で済んだと、
聞いた。

火の元は、同級生の寝タバコが原因。

しばらくして、
同級生一家が、私のアパートに来た。
かあちゃんにお礼と、
白いギターは燃えてなくなったと、
伝えられた。

弁償すると言われたが、
全焼した家を見たのもあり、
丁重にお断りした。

同級生に、
お前には、本当に感謝してる。
根気よくオレにギターの楽しさを、
教えてくれた事、そして、
あの白いギターに出逢わせてくれて、
本当にありがとう。

お前だって、
大事なギター燃やしちゃったんだろ?
オレの事は気にすんな。
そんな事はどうでもいいんだ。

お前のギターを弾く姿や、
ギターの音色にオレは心奪われたよ。
だから、またギター聞かせてくれ。

オレはやっぱりギターを弾くより、
お前がギターを弾いてる方がいい。

同級生は泣いていた。

同級生は、引っ越すそうだ。
家は全焼しちゃったから、
同級生の父ちゃんの実家に行くらしい。

そっか…じゃぁお前の、
ギター弾く姿、もう見れないんだな。
でも、お前は才能あるから、
いつか花咲いて、お前のギターを
聴ける日が来るかもしれないしな。
それを心待ちにしてるよ。

そう会話をして、お別れをした。

私の白いギターで、
ギターを弾く事はもうない。

数年後とあるテレビ番組で、
アマチュアバンドの大会があった。
そこに1組のバンドに目が止まった。
アイツがギターを弾いていたのだ。
結果は、優勝はしなかったものの、
ベストギタリストにアイツは、
選ばれていた。

私との約束を守ってくれた様な気がして、
すごく嬉しかったし、あの過ごした、
日々がとても輝いて思い出す。

楽器屋に行きギターを触る。
難易度高いFコードはもう弾けない。
しかも、指は柔らかくなっていて、
弦を押さえた指が痛かった。

あの日もし、
同級生の家が火事に、
なっていなかったら…
どうなっていただろう。

私は白いギターを弾いて、
もしかしたら、同級生と組んで、
音楽の世界に行ってたのかな…。

いや、私にはそんな才能はない。
ありえない夢を見てしまった…。
いかん、いかん。

じんじんと痛む指を見つめ、
アイツの音色を独り占め出来て、
あん時はすごく幸せ者だったんだな。
とちょっと胸が高鳴った。

そんな淡い思い出であった。

ギターにもう一度挑戦してみようかな…。

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