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ヤギ語り                              #11

 冬になって、ふぶきの 食べるものが、減った。
緑の草が、ほとんどなくなってしまった。見渡す一面、茶色の世界。それでも、常緑の木々は、ある。それから、蔦類がある。冬の初めはそれらを取って来てなんとか凌いでいた。近所で、庭木や畑の周辺の樹を剪定したものから、ふぶきの 好むものを分けて頂くこともあった。あとは、干し草や、秋に、柿の葉がたくさん落ちた時、拾って干しておいたものとか、頂いたミカンとか、少し前までは、まあまあ凌げていた。
 けれど、最近は、どんぐりの葉っぱと干し草ばかりになってしまい、米ぬかを足しているが、なんだか、不満気だ。
 裏山を見回って、蔦類(好物)を探すが、はしごを掛けたりして 手の届く範囲は、あらかた取ってしまった。後は藪を切り開きながら食べられそうなものを探している。

 今日、藪の奥に わりと好んで食べる 柴のような樹を見つけたのだが、その藪というのが、棘(いばら)の藪なのだ。
 棘というのは、本当にやっかいで、怖ろしい。身長より高く茂っていると、よほど慎重にやらないと、顔を傷つける。手袋は革製の厚手のものでなければ貫通して指を刺す。気を付けていても服に引っかかるとかぎ裂きが出来る。
 夏にこの薮の手前までは刈り進めていたのだが、棘に阻まれ、断念した場所だった。相当複雑に絡み合いほかの植物とも連携するように絡まって、取り付く島もない、といった様相だ。
 時間はかかるが、少しづつ慎重に切り払うことにした。どこから取り掛かるのがいいか見回ってみた時、夏には緑に覆われて気が付かなかったものを見つけた。

スズメバチの巣だ。30㎝弱くらい、大きい方ではない。この季節なので、もう空き家だと思う。夏に、気付かず薮を切り払っていたら、酷い目にあったかもしれない。棘に怖気づいたのは、虫の知らせだったのかもしれない。

 木登りをしたり、藪を切り払い、スズメバチの巣に遭遇したりと、この歳になって、けっこうな冒険をしながら、この、何もない季節、野生のヤギはどうやって生きのびるのか、想像してみる。
 立ち枯れて、茶色くなった草や、落ち葉を食べたり、木の皮を剥がしてたべたりしながら、寒さと空腹を紛らわし、やがて間もなく訪れる芽吹きの季節を心待ちにして過ごすのだろうか。

 木の葉や、蔦を集めたり、藪を切り払ったり、木に登ったりしていると、もうこの時期には 次の芽吹きの準備が着々と整っている事に気が付く。小さく硬い木の芽や、土には浅い緑の草の芽が生まれている。あと少し暖かくなれば、一斉に若緑の命が芽吹くだろう。

 ふぶきにとって初めての、厳しい冬の季節も、もう半ば過ぎ。あと少し辛抱すれば、また賑やかな季節が廻りくる。そして、3月になったら、ふぶきは1歳になるから、その時は、家族みんなでお祝いをしよう。よく意味はわからなくても、「人間とはこういうものだ」とふぶきも何か感じてくれると思う。
 

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