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子育て、親育ち                       【「引っ越し」と「登園拒否」】


私は 小学校1年生の2学期まで 山の小さな分校に通った経験がある。    その 山の小学校は 全校生徒50人 1年生は7人だった。         私には その学校生活がとても楽しかった。              毎日 「今日は 何をしようか?」とワクワクしながら通学した。   「学校って、楽しい」と疑いなく思っていた。

けれど 2学期の終わりに 我が家は引っ越し 引っ越した先では    生徒数850人 1学年30人4クラス という 当時としては さして大きくもない普通の小学校に転入した。                    「さして大きくもない」と言っても 生徒数50人の学校から転入した私には、とてつもなく大きな変化だった。

変化に適応し学校生活に慣れるのに四苦八苦したが、                       慣れた時には もう 私にとって 「学校」は ‟楽しい” 場所ではなくなっていた。   

「あの時、転校がなく、あの山の小学校にずっと通っていたら どうなってたかな?」 というのは 私の子供時代からの ‟心残り” だった。


母になり、3歳を過ぎた我が子を見ていると ふと 子供時代の‟心残り”が 頭をよぎった。

臆病で 慎重で 頑固で あまのじゃく 。                          色々な事に 人より多くの時間を必要とすることも多い こぐま。                               ふつうの学校生活では 「適応」する事にばかり時間やエネルギーを使い、楽しい時間や経験を積み重ねる事が出来るだろうか?

そんな 漠然とした不安が 時間の経過とともにより現実味を帯びてきて  やがて 確固たる意志に変わった。


「山に 引っ越そう。」


ととくまとの話し合いも 大きな意見の対立はなく、                      「引っ越し」は決定事項になった。

引っ越し先の選定は こぐまが 通うであろう小学校 を中心に考え、   地図と、ウェブの小学校紹介記事を頼りに 4,5ケ所あたりを付け    現地に足を運んだ。

ほとんど土地勘もない場所に 地図だよりで足を運んだところで、得られる情報など 殆どなかったが、最後に行った場所に何か感じるものがあり、    「ここにしよう」と いうことになった。

「ここにしよう」と決めたからといって、
その場所には 何の伝手も、当てもない。                                             まあ その後 色々あったが とりあえず 現在 私達はその場所にいる。 もう 14年も前のことだが 今思えば ちょっとした”奇跡”だったような気がする。


この地に引っ越してきたとき こぐまは 4歳過ぎだった。引っ越し当初  家の修繕やら 家庭菜園への挑戦やらで 大人は何かと忙しく、以前のように こぐまの 散歩や遊びに 時間をかけられなくなっていた。

退屈で死にそうになっていた こぐまに 「保育園 行ってみる?」   と持ち掛けると 色々質問した後 だいぶ逡巡していたが、       「行ってみる・・・」 と。 

こぐまが通う予定の小学校の近くに 「児童館」という保育施設があった。  その小学校に通う子の8割くらいが この保育施設の出身だということで、来るべき小学校生活の準備として その保育施設に                           こぐまを託すことにした。

こぐまは4歳だったので ねんちゅうクラスに入れてもらった。     このクラスが今後、約10年間 共に過ごす仲間たちになるのだと、最初の登園日には 先生の説明よりクラスメートの様子の方が気になった。

こぐまは 心配した程の 拒絶反応はなく 緊張はしていたが それなりに集団のなかに溶け込んでいった。 一安心だった。

その日のお迎えの時には わりと上機嫌で 楽しかった事の話をしてくれた。次の日も、その次の日も、順調に登園していた。

(よかった、取越苦労だったかもしれない) と思った刹那、3日目のお迎えの車の中で 「明日から、児童館には行かない。」と宣言する こぐま。

「 どうしたの? 何かいやな事があった?」と尋ねるが                        「イヤなことはなかったけど、明日から 行かない」と言う。                             わけがわからないので、一旦 こぐまを家に送った後 児童館に戻って 先生に話を聞いた。

けれど 先生方もびっくりするばかりで 理由はわからないという。          「園では 泣いたり駄々をこねたりすることもなく、むしろ 積極的に先生のお手伝いをしてくれたりしてて、 理由はわかりません。一時的な事かもしれないので、明日も 普通に登園させてください」と言われた。

家に戻ると こぐまは 普通にビデオを見てケラケラ笑っている。                             その日は それ以上 その事にはふれずに 普通に過ごした。

次の日、私が登園準備をしていると、                                   「 児童館には行かないよ? 昨日言ったよ?」 と こぐま                    

こうなったら 絶対 折れない こぐまだ。                           「そうだね、もう行かないって、聞いたけど、なんで行きたくないの?」    「・・・」返事がない。                                         「お友達に 意地悪された?」  首を振るこぐま。                        「先生にイヤな事された?」   首を振るこぐま。                                「先生もお友達もイヤじゃないの?  じゃ、なにが イヤなの?」

「お昼寝の時間がイヤ。眠くないのに寝なきゃいけないの わからない。」  「匂いもイヤ。ヘンな匂いがずっとしてて。がまんできないけど、言えない」 「あと うるさいのもイヤ。赤ちゃんの声とか。でも 言えない。」


お昼寝に関しては 何か解決策があるかもしれないが 
音(声)や 匂いに関しては 私だって 先生に ‟言えない” 。                  というか、少し感覚過敏なところがあるこぐまは 
‟家で” ‟私”に対しては 
「音」や「匂い」に関して どしどし 文句を言ってくる。                うるさいくらい ずっと文句を言っている。                          けれど ‟保育園”で ‟先生” に対しては ‟言えない” となるんだ・・・     これ、「時と場所をわきまえる」という処世術 だと思うのだが、
保育園に上がる前から 出来ることなのか?と 変なところに感心してしまった。


「児童館 行かなかったら また 退屈になっちゃうよ?大丈夫?」      「・・・イヤだ」                          「じゃあ どうするの?」                                         「お手伝いする」                                                     「お家で? ととや ママの?」                                           顔を上げ 力強く頷く こぐま。

私と こぐまのやり取りを 横で黙って聞いていた ととくまと 顔を見合わせた。                                       「家の手伝いをしたい」 という 我が子の申し出を拒絶することは       私達には出来なかった。


児童館に電話して、「しばらくお休みします。」と伝え                        私達3人は 戸外に出た。 日差しの強い 初夏の朝だった。


最初の頃は こぐまは 5分程作業すると 涼しい家の中に逃亡した。  テレビをつけ扇風機で涼んでいるところを 捕獲し 作業にもどす。   また5分すると 逃亡し 冷蔵庫を開き 冷気で涼んでいるところを また捕獲した。                                              1時間作業したら アイスやジュースで 3人で休憩し 次の作業に。    正規の休憩の合間にも 何度も こぐまは逃亡し 
その都度捕獲しながら のんびりとした 夏の一日が終わる。

次の日もまた同じことの繰り返し。 
けれど 少しずつ こぐまの逃亡回数は減っていき、
2週間経ったころには 
2時間くらい草むしりを続ける事が出来るようになっており 
「成長だな~」と感心したりした。

そんな夏の日の夕方。作業が終わって 3人でお茶を飲んでいたら       「明日から、児童館に行く」 と 突然 こぐまが宣言した。

こぐまを見ると 2週間ですっかり日焼けし なんだか 体格も一回り大きくなったように見え 目に ‟自信”の光が 見えたような気がした。


突然はじまった 夏の日の 家族共同作業は 唐突に終わりを告げ      こぐまは 次の日から 何事もなかったように 保育園に戻って行った。

私と ととくまにとっては 忘れえぬ 夏の日の思い出である。 

        

                                               

  

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