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ヤギ語り                              #10

 先日の寒波到来から、ふぶきは 家の玄関に引っ越してきて、そのままここで暮らしている。
 山の冬は寒い。特に「寒波が…」と騒いでなくても、夜は、普通に、0℃とか1℃とかになる。昼間でも 家の坪にも、ふぶきの 居た場所にも、ほとんど陽当たりがない。一度 家に入れてしまったら、元の場所に戻すのが忍びなくなってしまった。家族会議でも、お互い顔色を探りながら、結局は3人とも同じ意見だった。「暖かくなるまで、このままでいいんじゃない?」

 玄関の土間を占領されているので、何かと不便はあるし、宅配便や、生協さんや、ガス屋さんたちは驚くし、匂いも、だいぶあれだけど、毎日藁の取り換えやお掃除で、仕事は増えたけど、やはり、身近にいてくれると、癒されるし、安心できる。

 猫の時もそうだったけど、息子は 「トイレのお世話」がどうしても出来ない。本人も、「やらなきゃ」という気持ちはあるのだけれど、生理的な反応が出て、まともなお世話が出来ない。なので、私が引き受ける事にした。

 床に敷き詰めた大量の藁を外し、下に敷きこんだペットシーツを取り換える時、今まで気が付かなかった事に気が付いた。毎日5~8か所位に、オシッコの跡があるのだが、そのうちの数か所の色が変な時がある。最初はなんだかわからなかったのだけど、どうやら血尿のようなのだ。びっくりするような鮮血ではなく、薄く、血液が混じっている感じの色。血尿ではないか、と認識してからは、だいぶ心配になって、獣医さんを呼ぼうかとも思ったが、日々の行動や様子には変化はない。夫がウェブを検索して、「毒草を食べた時、血尿が出る」という記述を見つけた。

 それならば、思い当たることはある。
 この、ヤギにとっての「毒草」問題は、頭の痛い問題だ。ヤギにとっての「毒草」とされる植物は、たくさんある。知っている草もあるが、ほとんどは、これまで意識したこともなく、知らなかったり、気が付いていなかったりする植物だ。
 最初は、「ヤギは、自分が食べられない草を知っているので、ヤギに任せておけば大丈夫」という記述を信じていたが、毒草を食べて死んでしまったヤギの話なども目にするし、ふぶきは 毒草とされる「水仙」や、「彼岸花」を好んで食べようとする。引っ張って遠ざけても、こちらの隙をうかがって、食べてしまう。食べてしまった時は、気を付けて様子を見るのだが、大抵何事もなく過ぎる。そんなに気にしなくてもいいのかとも思うが、本当のところはわからない。前に獣医さんに尋ねた時は、「私は、その情報を持っていません。」と 取り合って貰えなかった。獣医さんにとっても、やっかいな問題なのかも知れない。

 今回、「ペットシーツ」を使ったことで、この事実に気が付いた訳だが、気が付いても、どう対処すればいいのかわからない。
 野山の草を食べさせるのをやめて、間違いのない 販売されている飼料を与えることも考えられるが、それは、したくない。
 名前を持ち、人と暮らしている ふぶきは もう、自然のままの暮らしをすることは無い。それはわかっているけれど、食べるものくらい、自然の野山のものを 出来れば食べてもらいたい と思う。ただ長生きする事だけを、ふぶきの、生きる基準にしたくはない。
 そして、それは 私達にも同じことが言える。生きていればこそ、と言う事は、ある。けれど、命を長らえる為だけに 私は生きているのではない。生きている間にだけ感じられることを 感じ、出来る事を やりたい。
そのために 私は 生きている。


 願わくば、ふぶきの ‟ヤギ生” が、喜びと、驚きと、幸福に 充足したものであらんことを願う。
 私達は、それに資するための 見守りと奉仕を、怠りなく続けよう。 

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