転生機士の異世界英雄譚 第三話
泉のそばで機体の起動チェックを終えた俺たちは、現在の状況を把握するべく、一旦休憩をしていた。
「それにしても、本当に転生するとはな……ここが、サスティアナの言っていたオタークス世界とか言う異世界か?」
全高一〇メートルの神機ヴォルツィオの肩に座った俺から見える視界には、牧歌的な草原がだだっ広くひろがっている。
隣に座っているサスティアナとヒナタも、だだっ広い草原を見てぼんやりとしていた。
「そうよ。わたしがきちんと転生させたからね」
「草原しかないですにゃー」
俺は周囲を見回してみたが、遠くに山のようなものが薄っすらと見える以外、草原と空に数羽の鳥が飛んでいる風景しか見えない。
「眞、なにキョロキョロしてるの? もしかして、もうお家に帰りたくなった。ホームシックになったんなら、あたしが癒してあげようか?」
隣に座るサスティアナが、ニンマリした顔でこちらを見てくる。
「はぁ? ち、ちげーし! ホームシックとかそういうんじゃねーし!」
「ほらほら、あたしがギュってして癒してあげるよー」
サスティアナが誘惑するように両手を広げた。
容姿とスタイルだけはなまじ良いので、黙っていれば騙される輩が大量発生するだろう。
だが、俺は騙されんぞ! もう、一回騙されてるし!
「ちっ! 眞はノリが悪いわね。あ、でも触れてると妊娠しちゃう野獣だったから無理ね。あはは、ごめん、ごめん」
「まだ、あの件のこと根に持ってるのかよっ! 不可抗力だろうが!」
本当にこの女神様はいい性格をしてやがる。
きっと、女神の中でも異端で爪弾きにされていたに違いない。
サスティアナに対するイラつき度がドンドンと上がる前に、今俺たちが置かれている状況を冷静に確認することに専念した。
「んなことよりも! 俺たちはこれからどうするんだよ! 神機ヴォルツィオの専属機士として、この世界の魔物とか、霊機を倒せばいいのか?」
「眞はあたしの話もきいてなかったの! じゃあ、しょうがない. もう一度説明するね。あたしが管理していたこのオタークス世界なんだけど、そこには精霊の力を借りて動く霊機があるってのは理解してくれてるよね?」
「ああ、神機ヴォルツィオみたいなやつだろ。ゲーム内だとたしか八五種の機体がいたな」
「さすがオタク。数もピッタリね。その霊機なんだけど、一部の霊機がこの世界に滞留する魔素によって変異して、妖霊機化して暴走していったのよ。そして暴走した妖霊機たちは動物を魔物化させ、人類を襲い始めた。ここまでは大丈夫?」
「ああ、妖霊機が魔物を作り出し、集団化して人を襲っているんだよな。魔王みたいなもんだろ。ゲームでもそういうボス級の機体が何種かあったのは覚えてるぞ」
「眞の言うとおり、この世界の人類は上位の妖霊機のことを邪神とか魔王とか呼ぶわね。このままだと早晩人類は滅びかねないから、愛する人類が滅びないようにあたしが丹精込めて作った神機ヴォルツィオの力で妖霊機を討つために、異世界から呼んだ眞とともに、この世界に降りてきたってことよ。理解してもらえた?」
サスティアナが得意そうに鼻の穴を拡げ、さも自分が尊い自己犠牲の精神を発揮して俺の転生についてきたと、演説ぶっていた。
でも、それは違うって俺は知っているんだよな。
転生間近のドタバタしてた時、きちんと俺の耳に今回の事情が飛び込んできてたんだよね。
俺は騙された恨みを倍返しするべく、自己犠牲のため自ら地上に降りた女神という姿に酔っているサスティアナに現実を突きつけてやることにした。
「ああ、やっと全て理解した。サスティアナが天なる国の『神子兵器開発計画』という重大な計画を担う兵器群として作った初期ロットの霊機に重大な欠陥があったことで、地上試験中に妖霊機化したことも分かっているって」
「え? え? ええ?」
「そうそう、確か暴走して妖霊機化をしたのを見て、『マジ、やっべ。やらかしたわ』とか焦ったサスティアナが、現地改修した霊機も、妖霊機に喰われてたとか」
「え? あっ、あっ、あっ?」
「ちょー焦ったサスティアナが、人類に霊機の製造法を伝授して、あとは知らぬ存ぜぬで放置したのも何故だか俺の記憶にはあるんだなぁ」
「う、う、うううぅ」
「んでもって、放置してたのはいいけど、いい加減、妖霊機が数を増やして人類が劣勢になってきたもんだから、上司のバーリガルにバレそうになって、慌てて神機ヴォルツィオを作ったのはいいけども、精霊をメイン制御役にするとまた暴走するし、オタークス世界の人じゃクソ雑魚技能しかないしって困ったところ、『そうだ! 異世界人を使おう』ってな軽い考えで、俺の魂を神機ヴォルツィオに入れ、この世界に送り込んでまた知らん顔を決め込もうとしてたのも何故だか知っている」
「あわわ、はわわ、あうあうあ」
「でー、その事実に気付いた上司のバーリガルさんにバレて激おこされ、この世界の管理権取り上げられて、妖霊機破壊の現地責任者兼罪人として俺と一緒に地上に送り込まれたんだ! サスティアナさんよぉ、この見解であってるよな?」
俺の説明を聞いていたサスティアナは、綺麗なエメラルド色の瞳いっぱいに涙を溜めた。
「ちちちち、ちがうもん! あたし、そんなポンコツ女神じゃないもん! 上司のバーリガル様の陰謀に巻き込まれて地上に落とされただけだもん!!」
サスティアナは必死に誤魔化そうとしているが、転生前のバーリガルとサスティアナのやり取りを俺はキチンと覚えていたのだ。
だから、今俺が言ったことが、この世界に起きた事実であろうと思う。
つまり、この世界の危機は目の前の地雷系女神が、自分の実験の失敗を隠蔽しようとしたことで起きたことであった。
「ちがうもん! ちがうもん! 超絶天才なあたしが設計した霊機が暴走するなんてありえないもん! 眞のバーカ! バーカ! ばかぁあああああああああああ!!」
黙っていれば美少女であるサスティアナが、幼児のように装甲版の上で手足をばたつかせて転がり回ってギャン泣きしている。
はぁー、スッキリした。
いやーマジでこれは癖になりそうだわ。
それにしても、この世界の住人は管理する女神があんなポンコツクソビッチ女神でさぞ苦労しているだろうな。可哀想に……。
肩の装甲板の上で転がって喚き散らしているサスティアナを華麗にスルーして、機士席から取り出しておいた双眼鏡で更に詳しく周囲に目を凝らす。
すると、視界がズームされ遠くの岩山、森林などが見えた。
見える範囲に集落っぽい物はないか、それにしてもやたらと緑豊かな世界だな……。
霊機が存在する世界なんで、もっと近未来的な世界かと思ったけど、そう言えば、ゲームも僻地は割と田舎風景だったな。
転送されたこの場所が、オタークス世界の僻地という可能性もあるな。
とりあえず、身体を休められる集落や拠点みたいな物がないと、整備も休憩もままならない。
腐っても(大いに腐っているが)この世界の管理者だったサスティアナなら、現在位置がどこかくらいは分るはず。
俺は装甲板を転がって喚いているサスティアナに現在位置と近くの集落の位置を尋ねることにした。