転生機士の異世界英雄譚 第一話

「ナイトメアランクのラスボス。原初の妖霊機ファントムマシンマレヴォランス! 総プレイ2000時間! ようやく、お前を倒せる時がきた!」

 先行して空を飛ぶ漆黒の敵機をレティクルに収め、操縦桿のトリガーを引くと、自らが操るロボットである霊機エレメントマシンから、いくつもの誘導弾が射出されていく。

 誘導弾は緑色の粒子を巻き散らしながら、回避を試みている原初の妖霊機ファントムマシンマレヴォランスの背後に迫った。

 着弾すると思った瞬間、誘導弾は敵機に触れることなく、闇の渦に飲み込まれた。

「うっそだろ! あんな回避ありか!」

 こちらの動揺を察したように、コクピットにロックオンの警告音が鳴り響く。

 敵機背部の突起物がいくつも射出され、それぞれが自立意思を持ち、こちらに向かって黒いレーザーの弾幕を放ってきた。

「あんな位置から反撃だと! すげえ、弾幕だぜ! これがナイトメアのラスボスの力! くぅ! 倒してぇ!」

 黒いレーザーが機体に触れるたび、シールド値を示すバーがガリガリと削れていく。

 これは長くはもたねぇ! 最強の一撃で落とす!

 スラスター量を調節するフットペダルを踏み抜き、操縦桿を巧みに動かし、猛烈な弾幕の中を高速機動で掻い潜り、敵機に向かって急接近する。

 シールド値のバーはなくなり、装甲板に直接ダメージが入り始め、次々に剥げ落ちていくのが見えた。

「食らいやがれぇえええっーーーー!」

 超至近距離まで接近し、右腕に装着しているスクリューパイルバンカーを無防備な敵機の背中に向かって打ち込んだ。

 無防備な背中に吸い込まれていったスクリューパイルバンカーの先が、敵機の動力源を貫く感触を返してくる。

 やった! これは、確実にやったぞ! ついに――!

 倒した瞬間、コクピット内が大きく揺れた。

 うおっ! まさか、機体がもたなかった――

 コクピットの内の揺れは大きくなり、俺の意識は遠のいていった。

「おおい! 天津、天津眞あまつ しん! 授業中に寝ぼけて叫ぶな! 他のやつの迷惑だぞ。あのゲームはオレも好きだから文句は言わんがなー」

 「んあっ!?」

 覚醒した目の前には、見慣れた教師の顔があった。

 やっべ、また寝ぼけて寝言を言ってたか……。

 よだれを拭いて、周囲を見ると、同級生たちの厳しい視線に曝された。

「さーせん。静かにします」

 空気に耐えられなくなったところで、授業の終了告げるチャイムが鳴った。

「6時間目終わったので、天津眞あまつ しんは帰宅します!」

 ホームルームで詰められそうな気配を察し、俺は敵前逃亡を選ぶことにした。

 退屈な学校の授業を終え、帰宅部の俺は夢にまで見てしまうくらいハマっているVRゲームをするため、見慣れた通学路を通り、家に向かって走る。

 そんな俺の視界の端に、茶色の子猫が車の行き交う道路に飛び出す瞬間が飛び込んだ――。

「あぶねぇ! 飛び出すなよ!」

 猫アレルギーなのに、重度の猫好きでもある俺は、とっさに道路に飛び出した猫を庇おうと車道に身を乗り出す。

 次に目が覚めると、先ほどまでいたはずの見慣れた通学路ではなく、真っ白な何もない空間が目の前に広がっていた。

「にゃあ、にゃああん。にゃ」

 俺の手の中には、さきほど救おうとした茶色の子猫が窮屈そうに丸まっている。

 丸まっている子猫は、俺の手をペロペロと一生懸命に舐めていた。

 ふぅ、よかった. 無事だったらしいな。

「あんた、天津眞あまつ しん、18歳、ゲーム馬鹿の落ちこぼれ学生よね? なんか余分な子がついて来ちゃってるけど……まぁ、いっか」

 背後からかけられた声に振り向くと、そこにはド派手なピンク色の長い髪と、エメラルド色の瞳をした同い年くらいの綺麗な少女が立っている。

 声をかけてきた少女の服装は、ファンタジーロープレに出てきそうな女神様が着るような、露出度の高い真っ白なドレスを着ていた。

 カ、カワイイ……。

 けど、こんなコスプレイヤーみたいな子と会ったことないよな?

 でも、なんで俺の名を? それにこの場所はどこだ?

 今いる場所に疑問が浮かび上がったが、少女は俺のことを無視して捲し立てるように話を続けていた。

「あんたにちょうどいい話があるのよ。あたしの言うことを聞いて、今すぐ転生を選べば、さっきみたいなしょぼくれた人生じゃなくて、次の人生では大貴族生まれのスーパーチート持ちっていう超優遇スタート付きの人生確定。どう? すごくない? 中々これだけの掘り出し物の転生は出てこないわよっ! 今すぐに転生したくなったでしょ! ねっ! ねっ!」

 顔がくっつきそうなほど近くで、そんな力説されてもなぁ。

 なんだか言ってる内容が意味不明すぎて、分からないんだが……。

 それに目の前の少女が全身から放つ必死さが、俺の危機感知能力を煽ってくる気がする。

「すみません、転生とかって意味が分からないんですけど……。あの、俺、家に帰る途中なんで、失礼してもよろしいですかね? ああ、助けてもらったことは感謝してますんで、後日またお礼には来させてもらいますね」

 俺は少女にいかがわしい雰囲気を感じたため、手の中にいた子猫を抱えると、その場から立ち上がった。

「ちょっと、どこに帰るのよ? あんたはもう死んでるわよ。死んじゃってるから、超一流の女神である、このサスティアナ様のところへ導かれて来たんだからねっ!」

 サスティアナと名乗った少女は、大きめの胸を逸らし指を突き付けると、俺が死んでいると宣告する。

 は? はぁ? 俺が死んでる? 今、死んでるって言ったよね?

 まさか、この真っ白な世界ってあの世ってことか?

「ちょ、ちょっと君。俺が死んでるって一体どういうことだよ?」

「ん? 死んでるから死んでるってことよ。あんたの死因を知りたい? あーちょっと待ってね」

 転生の女神サスティアナの手に、どこからともなくスッと帳簿のようなものが現れた。

「はいはい、死因、死因ね。えーっと、あんたが手にしてるその子猫ちゃんを助けようとして、トラックを避けたまではいいけど、地面をがりすぎて縁石に頭をぶつけてお亡くなりね。慣れない善行を積もうとしたのが運の尽きって感じかしら」

 この女、意外と失礼なやつかもしれない。

 人の生き死にを笑うとか性格悪すぎでしょ。

「その子猫ちゃんも一緒にこの場所に導かれたのは、レアケースだわ。なんでこうなったのかしらね。完璧なあたしの仕事だったはずなのに。まぁ、いいか」

「にゃあぁあん」

 性悪な女の言葉に傷つきそうな俺のため、手の中に納まってた子猫が慰めてくれるような鳴き声を上げた。

 お前、俺を慰めて……ええ子だな……。

 助けるために巻き込まれて死んだとはいえ、お前には罪はないもんな……。

 鳴き声を上げた子猫は、クリクリした眼で俺の手を必死にペロペロと舐めている。

「これで、あんたが死んでるって理解できたでしょ? さぁ、あたしが提示したバラ色の転生人生を選ぶよね? ねっ? あ、そうだ! 善行を積んだ君には特別に特典付けちゃおう! 特典! 今だけ即決キャンペーンで、その子猫ちゃんも一緒に転生させてあげるわ! 出血大サービスだからねっ!」

 サスティアナは、明らかに俺を転生させようと必死な顔をして勧めてくる。

 その余裕のない必死さが、逆に俺の決断をためらわせた。

「分かった、分かった。俺が死んでるのはよぉーく理解した。けど、なんでそんなに俺を転生させたいんだよ?」

「え? べ、べべべつにしたくないなら他の人でもいいんだけど。たまたま、たまたまよ。あたしのところに眞が来たから、特別にあたしの管理する世界へ転生させてあげようかなって思っただけ。ふ、ふふふ、深い意味はないわ」

 サスティアナに、なんで俺を転生させたいのかと聞いたら、エメラルド色の瞳をキョロキョロさせ一気に挙動不審になった。

 動揺し過ぎでしょ! その狼狽ぶり、この転生、絶対になんか裏があるよね?

「やっぱやめとくか……」

「なんで! 超優遇スタートのウハウハイージーライフが確定している人がうらやむバラ色の転生人生よ! 普通の人はこんな転生できないんだからね! あたしの申し出断って、凡人どもと同じ消耗品みたいな扱いをされる底辺人生を送りたいのっ!」

 必死過ぎる。うーむ、怪しい。

 怪しすぎる……信用しづらい……。

 転生以外の別の道ってのはないのだろうか?

「もし、転生しないことを選ぶとどうなる? もしかして、このままか?」

「馬鹿ね! 転生しなかったら、魂ごと消え去って二度とどの世界にも存在できないで消滅しちゃうのよっ! 消滅!」

 俺が転生しない時のことを聞くと、ビクリとしたサスティアナがそれまで以上に挙動不審さを増す。

 このまま消滅かー、それはちょっと困った事態になるかもしれないなぁ。

 でも、このサスティアナって子をイマイチ信用できないんだよなぁ……。

 見た目は超絶可愛いんだけども。

「消滅したら、あんたが好きだったゲームもできなくなるのよっ! そんなの嫌でしょ! あ、そうだ! あんたがお気に入りだったあのゲーム……なんだっけ? あ、そうそう今度転生する世界は『神霊機大戦』の世界観に似た世界なのよ! ねっ、ねっ! だから、転生してみない?」

 むむ、あの『神霊機大戦』に似た世界観の異世界か……。

 プレイヤーは機士というパイロット候補生で、自分でカスタマイズした人型ロボットの霊機エレメントマシンを操縦し、敵である妖霊機ファントムマシンを倒して装備をはぎ取って強化していくゲームなんだよな。

 霊機エレメントマシンカスタマイズだけじゃなく、色んな開発要素もあり、やり込みができるゲーム。

 やりかけだった『神霊機大戦』に似た世界観の異世界と聞き、少しだけ興味が引かれる。

「その世界は、実物の霊機エレメントマシンとかあるのか?」

「あるわよ! 眞には専用の特別な機体を用意してるわ。だから、転生を決めてくれるわよね? ね?」

 特別な霊機エレメントマシン……。

 そう言われるとゲームをやり込んでいる俺としては、その霊機エレメントマシンを機士として操縦してみたい気になるな。

 元の世界では死んでしまっているし、魂ごと消滅させられるのは困るし、その特別な霊機エレメントマシンがある異世界なら楽しそうだし、子猫も一緒だし、転生してみてもいいか。

 特別な実物の霊機エレメントマシンに乗れるという話も気になるしな。

「よし、了解した。その異世界に転生させてくれ! こいつも一緒に……おっとそうだ。名前決めてやらないとな」

 俺の手を舐めるのに疲れたのか、気持ちよさそうに寝ている小さな茶色い子猫の頭を撫でてやる。

 名前か……名前……。

 こいつを見てると、日向ぼっこしているようなほっこりとした気持ちになるから……。

 『ヒナタ』って呼んでやるか。

「ヒナタ、ヒナタに決めた。サスティアナ、このヒナタと一緒に、俺をその異世界に転生させてくれ!」

「おっけいっ! その願い、聞き届けたわっ! さぁ、こっちの台の上に横になって! 今から転生の準備をするからねっ!」

 俺が転生を了承すると、サスティアナが指さす先に黒い台座がせり上がってきた。

 言われるがまま、ヒナタとともにその台座の上に横になる。

「いいわ! そのまま、目をつぶっていてね。次に目覚めたら、眞の身体は異世界オタークスにあるはずよ」

 台座に寝転んだ俺を黒いベルトで縛るサスティアナの顔が、なんだかとても邪悪そうに見えた。

 やっべ、あの顔。

 俺は選択を間違えたのかもしれない。

 キャンセルしようと、身体を動かすが、締め付けられたベルトのせいで身動きも声もだせなかった。

 寝台の心地よさにまぶたが耐えられず目を閉じると、サスティアナの気配がふと消えた。

 眼は開けられなかったが、幸い耳だけは聞こえていたので、微かに聞こえる女性とサスティアナが話している声に耳を澄ます。

『バ、バーリガル様!? なんでここにっ!』

『なんでここにですって? それは貴方が一番知っているでしょう。『神子兵器開発計画』の後始末と言えば、貴方もすぐに分かるはずです』

『ち、ちちち違うんですっ! アレは違うんですって!』

『貴方に設計製作を委託した神子兵器開発計画の中核を担うはずだった霊機エレメントマシン。あれは地上試験中に暴走し、魔素マナに汚染されたことで妖霊機ファントムマシンと化した欠陥機だったことも報告を受けました』

『違うんですっ! ちゃんとアレは現地で欠陥を改修しました』

『その現地改修の霊機エレメントマシン妖霊機ファントムマシンに取り込まれて、妖霊機ファントムマシン化したとの報告を受けています。貴方はその事実を報告せず隠蔽していたとの告発もありました』

『はわわ、違うんです。ちゃんと、あの暴走した霊機は処分しました。ほんとです。ほんと』

『では、なんでオタークス世界の人類が勝手に霊機を製造し、その暴走している妖霊機ファントムマシンとの戦いで劣勢に陥っているという報告が上がっているのですか? 確か、貴方に任せたオタークス世界は、万事問題なく治められていると聞いていましたが……』

『っ!? どこでその話を!! あた、あたしは管理世界の放置なんてしません!』

『ええ、放置はしてませんね。貴方は霊機エレメントマシンを実験していたオタークス世界が崩壊しそうになって、慌ててあの対妖霊機ファントムマシン専門霊機である神機ヴォルツィオを、私的に予算を流用して建造しているところまではこちらで掴んでいます。そして、あの少年を――』

『ち、ちちち違うんですっ! あれはちゃんとした神子兵器開発計画の機体ですから――それにあの少年は普通に――』

『サスティアナ、もう言い訳は聞き飽きたわ。貴方がスゴイ技術者であることは皆が認めていますが、今回の件は目を瞑るにはまいりません。今回の件で貴方に下った処分は、オタークス世界の管理女神職の解任、及び現地での妖霊機ファントムマシン問題の対策責任者です。問題が解決するまでこの地への帰還は叶わぬと思いなさい』

『いやぁああああっ! 違うのぉおおっ! 違うんだもん! バーリガル様っ! これは何かの間違いだからぁ!』

『あの少年の補佐役として、貴方が問題を解決することを願っていますよ』

 その声が聞こえた時、俺の意識は深い水の底に沈んでいくように消えていった。


「ご主人しゃまー、ご主人しゃまー起きてー。起きてにゃ」

 舌足らずな幼い少女の声が、俺の耳に入ってくる。

 誰だ? さっきのサスティアナの声じゃないし、聴いたことない声だな……。

 とはいえ、起きてって言われてるから起きるとするか。

 目を開けると、視界の先に茶色い髪に猫耳が付いた鳶色の瞳を持つ、赤丸ほっぺが似合う猫獣人幼女がいた。

 あー、夢か。

 夢でなかったら、俺の頭がぶっ壊れていることになっちまうからな。

 たしか俺は子猫を救って髪がピンク色の変なコスプレイヤーと、異世界転生ゴッコしてたんだよな。

 我ながら頭の悪い夢を見てたぜ。

「あー、ごめん。これは夢だから、俺は寝直すわ。ごめんな――」

「眞っ!! 起きなさいよっ!! ちょっと! 大変なことになっているんだからねっ! いつまで寝てるのよっ!」

 ド派手なピンク髪を靡かせ、エメラルド色の瞳に涙を溜めた、あの転生女神のサスティアナがなぜか俺を見下ろして叫んでいる。

 この女神……俺の夢にまで出てくるなんてな……。

 転生するとかどうのこうの言ってたが……。

 しかも、無防備に俺の視界に入るようパンチラさせやがって。

 エロゲーのヒロインかよ。

「あー、はいはい。夢なんで――」

「夢じゃないわよっ! 眞はオタークス世界に転生してるのぉっ! ついでにあたしも召喚されてて、ヒナタちゃんも猫獣人として転生してるんだからっ!! だから、起きなさい!!」

 え? マジで? あの転生話って夢オチじゃなかったの?

 俺って転生しちゃってるの?

「はっ!? マジで! 嘘だろっ!!」

「きゃあぁっ!」

 覚醒し跳び起きた俺の視界が、急に白い物で覆われた。

「ちょっと! 眞! どこに頭を突っ込んでるのよ! 馬鹿! 馬鹿!」

 白い物に視界を覆われた俺には、サスティアナの動揺した声と、頭部をポカポカと叩かれる打撃が伝わった。

「なんも見えねぇ! サスティアナ、頭叩くのをやめろって!」

 視界の無い中、手を振り回すとふにょんという柔らかな感触に触れた。

「っ~~~!! 眞、絶対わざとやってるわよね! わざと!」

「そんなこと知るか! 目が見えねえんだっつーの!」

 俺が必死にもがくと、白い物に覆われた視界が急に晴れて見えるようになった。

 視界が晴れると、真っ赤な顔で荒い息をするサスティアナがパンツ丸出しで地面に転がっていた。

「はぁ、はぁ、眞~! あんた自分がどんな大罪を犯したか分かってるんでしょうね?」

「はぁ? 知らんし。起き上がろうとしたら急に視界が無くなってもがいてただけだが?」

 俺の言葉を聞いたサスティアナのエメラルド色の瞳に、炎が宿るのが見えた気がした。

「眞! あんたは今、天なる国ヘブンスで一番の天才美少女女神の股間に顔を突っ込んでスハスハしたうえ、その豊満な胸をまさぐって押し倒したという大罪を犯していたのよっ! この罪は非常に重いわ」

 俺の視界を奪った白い物の正体は、サスティアナの着ている服だったのか。

 どおりでいくらもがいても、視界が晴れなかったわけだ。

 俺が一人でウンウンと頷き、納得していると頬に衝撃が走った。

「ってーー! 何すんだよ!」

「あたしの純潔性を汚したことに対する神罰! あと、エロい目でこっち見ないで!」

「見てねぇーし! っていうか、普通神様がパンツ見られたくらいで引っぱたくか? パンチラを見せてるような衣装の癖に」

 俺の反論に、サスティアナは目に涙を溜め、無言で二発目の平手が叩きこまれた。

 泣いてる。ちょっとだけ言い過ぎたかもしれん。

 あんな格好してる女神だけど、実はわりと真面目なやつなのかも。

 俺に二発目の平手を放ったサスティアナは涙を堪えているのか、下をうつむいたまま無言で立ち尽くした。

 その姿にさすがに俺も罪悪感を抱く。

「す、すまん。言い過ぎた。さっきの言葉は訂正させてもらう。それに――」

「――プッ、プークスクス! 眞ってば焦っちゃってる! 自分の暴言で女の子泣かせちゃったとか思って焦ってるでしょ! あー、マジウケるんですけどー! 眞ってば純情ねー」

 俺の謝罪を聞いたサスティアナが急に顔を上げたかと思うと、腹を抱えて笑い出した。

 この女、絶対に許さねぇ。男の純情を弄びやがって!

「ちょ、ちょっと眞。いやねぇ、そんな怖い目して。ちょっとしたカワイイ女の子の悪戯じゃないの。男の子ならこれくらいは冷静に受け止めないと。ねっ、ねっ」

「ああ、そうだな。冷静に受け止めないとな。この世界、女神殺しは許されているよな?」

 俺は拳を鳴らしながら、ゆっくりとサスティアナに近づいていく。

「し、眞? 冗談だよね? 男の子が女の子をグーで殴るなんてことしたら、DVよ。DV。そ、それにあたしが死んだら霊機エレメントマシンに乗れないわよ。それでいいの?」

 サスティアナに霊機エレメントマシンと言われ、怒りに沸き立っていた感情が急速に冷めていく。

 サスティアナの生死の決定は、霊機エレメントマシンを見てからでも遅くないか。

 実物の霊機エレメントマシンに乗るため、この世界に転生したんだからな。

「ちっ、命拾いしたな。さっさと霊機エレメントマシンに案内しやがれ」

「ふぅ、眞をからかうのも命がけね。ヒナタちゃんも、飢えた野獣の眞には気を付けなさいよ。触れられてるだけで妊娠しちゃうから」

 パンパンと衣装に着いた土ぼこりを払ったサスティアナが、隣に立っていた猫獣人の幼女に話しかけた。

 触れるだけで妊娠するわけねーだろが! サスティアナもいい加減なことを言いやがる。

 それにしても、獣人がいるってことはやっぱここは異世界だよな。

 赤丸ほっぺを搭載し、俺の方を見てニンマリと笑う猫耳と尻尾を装備した獣人の幼女に視線が釘付けになった。

「ご主人しゃまー。元気出してくださいにゃ! ヒナタはご主人しゃまと一緒に転生できて幸せですにゃー」

 ヒナタと名乗った猫獣人幼女は、俺に身体を寄せスリスリと甘えてくる。

 ヒナタってことは……あの時の子猫か!?

 まさかな……あんなちっちゃい猫だったし、それに普通の猫だったからな。

 俺はヒナタと名乗り、自分に甘えてくる猫獣人幼女が、助けた子猫なのか、聞いた。

「君は……あの時の子猫かい?」

「そうですにゃ! ご主人しゃまに助けてもらったあの時の子猫ですにゃ! サスティアナしゃまの好意でこちらの世界に存在する猫獣人として転生させてもらいましたにゃあ!」

 俺に甘えるヒナタは、顔中に喜びを漲らせた笑顔で答えてくれた。

 そっか、あの時の子猫だったか……。

 立派になって……よかった……よかった。

 あっちの世界では不運な死を遂げてしまってたからな……。

 こっちでは幸せに暮らして欲しいと思うぞ。

「そっか、そっか。転生したのかよかったな」

「はいですにゃ! ヒナタは、恩返しするため、ご主人しゃまのお世話をいっぱいするですにゃー!」

 ヒナタの笑顔を見るだけで、サスティアナによってささくれ立っていた心が癒されていく。

 サスティアナに騙されたのは最悪だったが、ヒナタが新たな人生を得られたことは喜ぶべきところか。

 俺は自分の指先で、ヒナタのほっぺをやさしく撫でることにした。

 どうやら俺の二度目の人生は、見た目だけはカワイイ地雷系女神と一緒に、この異世界で霊機エレメントマシンを操る機士としての人生を送ることになりそうだった。

 まぁ、それもヒナタがいるなら悪くない人生かもしれない。