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母の短歌 庭の山茶花次々と咲く

 身に沁みる冬を厭いて夫と見る
 庭の山茶花次々と咲く

小さな庭には、梅や沈丁花や私の知らない木々が植えられていた。そんな中で冬に赤い花をつける山茶花がひときわ目をひいた。ずっと椿だと思っていたが、母のこの短歌を読むとそれが山茶花だったのかと知った。

父は心臓に持病があり、特に冬の寒気は体に堪えた。春が来るのが待ち遠しくて、温かくなると「また一年だよ」と言っていた。また一年、生きられるということだ。母は、そんな父と縁側に腰をかけて、山茶花を眺める日常を歌った。

父は、手がしびれると言っていた。くるみの堅い実を二つ握り、手のひらの中で回す運動をしていた。くるみの実がこすれ、こりこりと小気味よい音を出していた。その様子を母は、こう歌った。

 くるみの実二つ握りて
 もむ夫の指の運動はこりこりと鳴る


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