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コロナ禍での医師の触診がうれしい

コロナ禍で随分と医者と患者の距離が遠くなったと感じることがあった。コロナ禍が始まった2020年の秋に胃腸をこわして、嘔吐し、発熱した。歩いて行ける近くの内科クリニックに受診したら、裏口に回された。急きょ作られたような裏口の狭い待合室の椅子に腰掛けて、医師が来るのを待った。しばらくしたら医師がやってきた。私と医師の間には透明のカーテンが垂れ下がっている。医師はカーテンの向こう側にいる。医師から簡単な問診が行われた。旅行に行ったかと聞く。どこへも行っていないので行っていないと答えた。コロナではないと思うが、検査をして置きましょうと言われて、診察後に正面に回り、受付で処方せんとPCR検査キットをもらってクリニックを出た。夕方には熱も下がり、検査キットに唾液を入れてクリニックに持って行った。外で待っていると医師が出てきて、危険物を取り扱うように慎重に検査キットをビニール袋に入れていた。翌日医師から陰性だったとの電話をいただいた。医師と私の間にある透明の境界線がいつまでも脳裏に焼きついて残った。

ニ三日して体調が回復した頃に日本橋室町にあるかかりつけ医のO内科クリニックを受診した。ビニール越しに経過を伝えたら、中に入りベットに横になるように指示された。医師は横になっている私のお腹を触って「もう治っている」と決断を下した。コロナ禍で医師との距離が遠くなったと感じたばかりだけに、医師の触診に驚いた。ありがたかった。「ノロ系の感染だ」との診断があった。

暮れにその年最後の通院に行った。「今年はお世話になりました」と紋切り型のあいさつをした後に「こんな時世にお腹を触ってみてくださってありがとうございました」と言う言葉が口から自然と出ていた。先生は笑っていた。


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