母の短歌 老い先の事など互いに触れずして
老い先の事など互いに触れずして
笑顔で語る息子らの招きに
母がまだ元気な頃の短歌だと思う。友人たちと楽しく交わっていながらも、先のことを思うと不安になることがあったのだろう。気丈な母は、口に出すことはなかったが、短歌を読むと本当の気持ちが感じられて、辛くなる。
母が介護施設で息をひきとったときには、ああすればよかった、こうすればよかったと思った。最後の数年は、歩いて数分の娘夫婦の近くに住んだのだが、友人たちからは遠くなった。すべてを満たすことの難しさを感ずる。外形的幸せと内面的幸せ、身体の安全と心の充足、そんな葛藤のなか理想的な生活はどうしたら得られたのだろうか。母は、こんな短歌も歌っている。
子と孫の和める家族に囲まれて
やはり独りのわれと思いぬ
2019年12月22日に介護施設にミカン牛乳ゼリーとお茶を持って会いに行った。テーブルで一緒に食べた。食べ終えたら、母は、車椅子に座りながら東京音頭を手踊りしながら歌った。歌い終わると
「これでオシマイ。みんなあの世に行った。いるのはこのばあさんだけ。よく頑張って残っているよ」
私は、頑張ったねと「うん」とうなずく。これが元気な母の最後の姿だった。
明日からインフルエンザ感染者数の定点数が基準値に達したため、面会ができなくなる。そして年を明けてからはコロナ禍となり、そのまま面会できなくなった。
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