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母の短歌 あと追うも出来ずに生きいる今日の道

 あと追うも出来ずに生きいる今日の道
 草の芽萌えてたんぽぽの咲く

母が60代で父に先立たれた。急に寂しい生活に変わった。道を歩けば、父と来たことが思い出されたようだ。「ここもお父さんと歩いたな。ずいぶんいろいろなところに行ったな」と言っていた。父が春彼岸に亡くなってから、何年目の春だろうか。ひとりで歩く道ばたに草は芽を出して、たんぽぽの花が咲いていた。

ひとりの人のことを思い、何度も歌に詠むと、次第に心は昇華していくと聞いたことがある。母は、また秋の日にこんな歌を詠んだ。

 常よりも夫逝きし事思いいる
 鈴虫の鳴く庭に佇(た)ちいて

いずれも、ひとつの死によって、いっそう強く生を感じさせる歌だと思う。


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