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初雪

今年(2022年)の初雪の報が年末をにぎわしている。日本海側は猛吹雪のようだ。この初雪には、冬に入り初めて降った雪の意味と新年を迎えて初めて降った雪のふたつの意味があるようだ。気象庁初雪の定義では、8月1日から翌年の7月31日までに初めて降る雪とある。

初雪は多くの俳句に詠まれている。ふたつの意味では、年末の句か新年の句か分からないのではと心配したくなる。年末の初雪新年の初雪ではニュアンスが違ってくる気もする。年の瀬に向けて降る雪は何かあわただしい。新年に降る雪は明るく感じる。それも雪国でない者の感想なのかもしれない。年末から降り続き積雪している地方では、正月の雪は去年からの雪の続きで特段珍しいことではないだろう。

 新しき年の始めの初春の
 今日降る雪のいや重け吉事

という大伴家持が因幡の国庁にて歌った新春の雪を万葉人は初雪と思っていたのだろうか。

芭蕉が日本橋と深川を結ぶ新大橋を詠んだ初雪の句がある。

 「元禄5申年の冬、深川大橋なかばかかりけるとき

 初雪やかけかかりたるはしのうへ

 同じく橋成就せし時

 ありがたやいただいて踏むはしの霜」

 (『江戸名所図会』による)

新大橋は元禄6年12月に竣工した。それまでは深川から日本橋に渡るのに両国橋を経由しなければならなかったのが、新大橋ができてかなり短縮された。深川に庵を営む芭蕉は、心からありがたく思って渡ったに違いない。

その初雪の句であるが、 元禄5申年の冬とあり、冬は旧暦10月から12月なので、年内の冬になり初めて降った雪ということがわかる。新大橋の工事記録があればもっとはっきりするのだが、芭蕉は、半分できあがった橋を元禄5年初雪の降る頃に詠み、約1年後の元禄6年12月完工時にまた詠んだ。新大橋の架橋には2年かかったのだろうか。工事過程が分かる句と言うと芭蕉愛好者に叱られるかもしれないが、冬になり始めて降る雪を初雪と言うのは、決して近現代になり気象記録のために始まったことではないことが芭蕉の句で分かった。それだけでもうれしい。

2022.12.16記


      新大橋と隅田川三俣

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