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空き缶のカンテラ

昭和の町の暗闇は、少年たちの冒険心をかりたてた。夏休みには、いつのまにか探検に行こうというと話になり、空き缶のカンテラを持って出かけた。これは、底に釘を内側に打って、そこにロウソクを立てて、上部には針金の取っ手を付けただけの簡単なもの。民家が少なくなり、田畑が広がる辺りは暗闇が続き、カンテラの明かりが頼りだった。金属製のカンテラはロウソクの熱で次第に熱くなり、取っ手にも熱が伝わり、熱くなった。カンテラが使えなくなると、懐中電灯を持っている人を頼りに歩いた。樹木が繁る奥に薄暗い家屋があり、それをお化け屋敷と呼んだ。お化け屋敷の周囲を歩き周ることで少年たちの冒険心は満たされて、もと来た道を帰った。それだけの探検なのだが、都会にはなくなった暗闇とカンテラの熱さが思い出として残っている。

熱いカンテラを思い出したのは、最近キャンプにはまっている子ども夫婦の家でアルコールのカンテラを見たからである。このカンテラには吊り下げ用の小さな輪っかと大きな取っ手が付いている。先日のキャンプで、4歳の孫が火を点いたカンテラの小さな輪っかを持ったとたん熱いと叫んだそうだ。父親は、おかげで火の熱さを学べたと前向きだった。

現代は安全な道具ばかりだが、カンテラという素朴な道具にふれて、火の熱さを学んだ。道具は両刃の剣で、便利さには危険がついてまわる。製造での安全配慮には限界があるだろう。結局は、安全に使うことを学ぶしかない。

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