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松本ことから田中はるへの手紙(明治◯年11月9日)

神田区西小川町の佐々木家に奉公に上がっている田中はる宛の、日本橋区田所町の幼なじみ松本ことからの手紙である。

先日(夏の宿下りにか)会った頃に田中はるは、病気だったのか、その後の病気の具合を案じている。また、松本ことが日中は裁縫の仕事をして、夜は学校に通っていることが知られる。封筒が松本ことから田中はるへの明治34年1月7日の年賀状のものと同じであるので、その頃の手紙だろうか。

以下、手紙の内容である。

久しく御便りも差し上げませんでしたが、あなた様始め姉上様にも何の支障もなくお暮らしでしょうか、お伺いします。

次に、私はじめ一同無事に暮らしていますので御安心下さい。先日お出で遊された際に何も御かまいもせず失礼致しました。どうぞ御ゆるし下さい。

つきましては、あなたがお帰りになられてから御病気は如何ですか。日々おうわさばかり申しています。かげながらご案じ申し上げます。

追々、寒気になりますので、御身御大切になさいますようにお祈りしております。すぐにでも御手紙を差し上げるつもりでしたが、御存じの通り、昼は裁縫に、夜は学校に通っていて、ついゝお伺いもしなくて悪しからず思し召し下さいますようお願い致します。末筆ですが、御姉上様にも、宜敷御伝へ下さい。申し上げたい事は山々ですが、後の便りに残しておきます。

つたない筆の仮名つなぎ 御目にかけるのも 大変はずかしく思いますが 惜しい筆留め   あらゝかしこ

十一月九日  ことより
恋しき はる子様 御許へ

原文
【宛先】
神田区西小川町一ノ三
佐々木様方 田中おはる様 御許へ

【差出】
(日本橋区)人形町 松本ことより
十一月九日

【本文】
久々御便りも申上ず候へ共 あなた様始め姉上様にも何のお障りもなう渉らせられ候哉お伺ひ申上候 次に私事始め一同無事にくらし居候ままま憚ながら御安心被下度候拝 先日御出で遊され候節には何も御かまい申上ず失礼致し誠に申訳も御座なく候へ共 偏に御ゆるしの程願上候 就てはあなた様御帰り遊され候てより御病気は如何に御座候哉 日々御うわさばかり申居候へ共かげながら御案じ申居候 追々寒気に相成候へば御身御大切に遊され候様いのり入候 早速御手紙差上候心得には御座候へ共 御存じの通りひるは裁縫に夜は学校へ参りついゝ御伺ひも致し申さず候へ共 悪しからず御思召被下度願上候 末ながら御姉上様にも宜敷御伝へ下され度願上候 未だ申上げ度事は山々御座候へ共 後の便よりと申残し奉候

 つたなき筆の かなつなぎ
 御目にかくるもいと はずかしく候へ共
 おしき筆とめ
   あらゝかしこ

十一月九日     ことより
恋しき はる子様 御許へ

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