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正月に忙しい母とガウェインの結婚

邪悪な騎士に囚われたアーサー王は、「女性が最も望むことは何か」という問いを出され、一年内にその答えが見つからなければ、領土を邪悪な騎士に与える約束をする。一年間、答えを探し求め続けた挙句に、森で出会った醜い老婆から若い騎士と結婚することを条件に答えを教わり、邪悪な騎士に答えを言うことでアーサーは領土を失わずに済んだ。老婆が教えてくれた答えとは、「女性が最も望むことは、自分の意志を持つこと」だった。
アーサー王が老婆と交わした約束により、騎士ガウェインが老婆と結婚する話に続いていく。

このガウェインの結婚の話を思い出したのは、正月に忙しくしていた母がはたして幸せだったかどうかに心が留まったからである。

正月のお節料理は、ハレの日のおめでたい料理であるが、正月は働かない日であるため、保存がきく味付けが濃い料理が多い。味が濃いお節料理は、正月三が日は主婦は働かないで、ゆっくり過ごすためという趣旨だと聞いたことがあるが、それでも、その趣旨に反して、母が暮れにはお節料理を作るのに追われ、元旦には朝から手間をかけてお雑煮作りをしていた記憶がある。

冷蔵庫が普及した現在、辛めの味付けのお節料理に意味はない気もするし、正月からスーパーは開店しているので、作り置きするようなお節料理は必要ない。それは伝統的な慣習なのだろう。現在では、ずいぶんと主婦たちは正月の労働から解放されたことだと思う。
 
かつての正月は、職場で行われているような年始参りの習慣が家庭でもあった。上司、恩師等の普段世話になっている人のところに訪問するのだが、訪問された家では、主婦は小まめに動き回らざるを得ない。主人は来客を相手に飲食し、主婦は台所で働くという光景は、日本中の家庭で見られたと思われる。自分が小さい頃もこういった光景が繰り広げられていた。暮れから正月にかけての労働が平日以上に大変だったことは、子ども心にも感じていた。

こういう日本の習慣が当時の女性たちに幸福だったか不幸だったかは、人により感じ方が違うので一概に言えないかも知れない。母からは、正月はお金がかかるから大変だと聞いたことはあるが、正月の忙しさについて不平を聞いたことがない。父の客人に久しぶりに会えることを喜んでいたのかもしれない。

「女性の一番の願いは、自分の意志を持つこと」

幸福感は、自分の意志により行動できるかどうかによるだろう。幸不幸を区別するものは、自らの意志で決定しているか、人から指図されてやらされているかの違いによることは間違いないと思う。「家」的な家族の中で姑の指示で動くよりは、核家族が進み、独立心を持った主婦が自分の意志を持って動けるのとでは、まったく違う。幼少の頃に一緒だった祖母は、伯母と共に転居して、母は、自由に正月を過ごせるようになっていた。たぶん、母は、忙しいながらも、「家」から解放されて自分の意志で行動できたことで幸せだったのだと思う。

その後、ガウェインは、醜い老婆と結婚するが、新婚初夜に老婆は若い乙女に変わっていることに驚く。乙女に変わった老婆は、ガウェインに言う。「私は魔法をかけられて醜い姿に変えられたが、騎士と結婚するという一つ目の願いがかなえられたので、一日の半分は若い乙女に戻ることができました。あなたは、私が若い姿でいられる時間は昼と夜のどちらを望みますか」
するとガウェインは、若い乙女と二人だけの夜を望んだ。これに対して、老婆は、「女性は、自分の美しさを昼間に多くの人に見てもらいたいものです」と言う。そこでガウェインは「好きなようにしろ」と言う。老婆はこれを聞いて「これで私は、自分の意志を持つことができた」と大いに喜ぶ。老婆は二つの願いがかなえられたことで、かけられていた魔法は解けて、もとの乙女の姿に戻ることができた。

「ガウェインの結婚」はかつて以下のサイトで知った。
世界史講義録 最初の授業 (timeway.vivian.jp)


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