見出し画像

母の短歌 ゴッホの如セザンヌの如描きたし

 ゴッホの如セザンヌの如描きたし
 五十路のわれに道開かれて

母にこんな短歌があったのかと驚かされる。子どもから見ると親はいつまでも歳を取らないように思えると言った人がいた。同時に親は産んだときの歳の分だけいつも歳上に思える。だから五十代だったと知って驚いた。油絵を始めた時がそんなに若かったのかと。その後に墨彩画の坂詰可津師に師事した。

ゴッホとセザンヌを歌に込めたのも驚きだった。何故かモネでもシスレーでもなく、ゴッホとセザンヌだった。展覧会で他の巨匠の絵が並ぶ中、麦畑の圧倒するようなタッチに足が貼りついて動かなくなったことがあった。そんなゴッホの絵。色面と色面のハーモニーにより立体が浮かび上がるセザンヌの絵、しかも油彩なのに透き通っている。その美しいマチエールに目が釘付けになる。絵画史上なくてはならない巨匠を母も崇拝していたのだ。

昭和50年に柏に移ったのは、母が56歳の年だった。五十路の母は、転居とともに、いろいろな道が開かれていく思いがしていたのだろう。二十代が戦争の日々だった母にとっては、新たな青春の日々だったのかも知れない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?