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【シャニマスコミュ記事】おまえは薄桃色にこんがらがって永遠を信じろ【感想文】

よくきたな。おれは三楼丸だ。おれは毎日すごい数のアイドルをプロデュースしているが、どこにも移籍させるつもりはない。 しかし今回おれはアイドルマスター シャイニーカラーズ内のイベントコミュ『薄桃色にこんがらがって』を読み、いてもたってもいられなくなったので、この記事を書いて公開することにした。

アイドルマスター シャイニーカラーズ:ブラウザ&アプリ対応のアイドル育成ゲーム。昨今稀に見るほどのキャラクター性の作り込み具合が魅力です。

最初に言っておくと、これは考察記事でも分析記事でもなんでもない。感想文に近い。喩えるならDark Soulsにおける手記であり、この考えが絶対的に正しいということもない。おれの考えは正しいのか? これは正解なのか? 正解なんて存在するのか? いろいろ考え、サルーンの隅で壁を睨んだままいくつもの夜を明かし、熱を出して寝込み、それでもいてもたってもいられなかったので、この記事ができたのだ。読め。遠からん者は音にも聞け。

・Never say Forever


おまえたちは永遠を信じているか? 変わることなく続く存在を信じているか? おれたちはときに、そのことを考え、苦しんできた。古くは平安の世、そして孔子の時代から……。こたえはひとつ。永遠などない。無のみが永遠であり、存在することは永遠に永遠へとなり得ないのだ。

しかし、物語の中で、時に永遠の似姿は顔を見せる。何度季節が巡っても、キャラクターたちは歳を取らず、成長もしない。彼女たちは違う物語を走っていくだけで、彼女たち自身は永遠である。そんな錯覚を見た経験が、おまえたちにもきっとあるだろう。

そして『薄桃色にこんがらがって』を考える上で、まずこの物語には永遠などない、ということを把握しておく必要がある。アイドルマスター シャイニーカラーズは架空の物語だ。しかし、立ち止まることを許されつつも、少しづつ前へと進んでいる、勇敢な物語だ。おまえたちはまずそれを感覚としてわかっておくべきだ。

・All goes on


本コミュにおいて描かれるのは、主人公である桑山千雪の対決と変化に他ならない。そう書くとまるで悲しいコミュのようであるが、実態は「結束のための対決」と「未来のための変化」だ。

「結束のための対決」。アプリコットという雑誌のカバーガールをめぐり、大崎甘奈と桑山千雪は対決する。そして、今回の物語において、その勝敗は毛ほども物語に関係しない。対決することこそが、彼女たちにとって何よりも大事なことで、それ以上のことなどなかったからだ。

「未来のための変化」。桑山千雪は、自分の中の「変化」を切り離そうとする。アプリコットは桑山千雪の「原点」の象徴であり、彼女がアプリコットにもう一度向かい合うことこそが、彼女の中で変わっていくもの、変われなかったものを、彼女自身が見つめ直す機会となっている。


もう一度はっきり言っておく。今回のコミュの主人公は他でもなく桑山千雪であり、他の誰でもあり得ない。全ての要素は桑山千雪に結びついている、と言った方がわかりやすいだろうか。

桑山千雪が乗り越えた問題とは何か? それは「本心」を恐れないことと、「変化」を恐れないことだ。


・過去は甘く、憧れの味


冒頭において、大崎甘奈は『アプリコット』のシード枠として声をかけられ、オーディションへの出場を決めている。『アプリコット』という懐かしい名前を聞いた桑山千雪は、過去読んでいたその雑誌へと想いを馳せる。

想いを馳せる、という書き方は適切でないかもしれない。正確には、「自分の中でアプリコットという雑誌が、どれほど巨大なものであったか見つめ直す機会を得る」と言った方が正しいだろう。そして突然恋しくなるのだ。過去の宝物が、当時よりもずっと輝いて見える。過去が亡霊になって、憧れの声で囁いてくる。「自分も同じアイドルなら、可能性として、もしかすると」と。無意識の声に、彼女は無意識に首を振る。そんな不誠実なことはできない、と。

最初、桑山千雪は大崎甘奈の力になることで、『アプリコット』への未練(もしくは、憧れ)を解消しようとする。怪我をした選手が、若い選手をコーチとして鍛え、現役時代になし得なかった栄光を掴み取り、悦に浸るように。自分にとって大切な人間が、自分にとって大切なものを手に入れることで、まるでそれが自分の手から失われていないかのように、錯覚しようとする。

木場美冬:なんか突然存在を思い出した。Sprite復活ありがとう。今年で恋チョコ9周年マジという驚きもあったけど、あおかなで5年も戦ってた驚きが勝るよ。

彼女が序盤何度も「3人で、アルストロメリア」と自分に言い聞かせるのは、同じアルストロメリアである大崎甘奈を大切に思うためではなく、自分と大崎甘奈を同一視しようとしているからに他ならない。「大崎甘奈にカバーガールになってもらいたい」という思いが先行するあまり、桑山千雪と大崎甘奈との足並みは次第に乱れていく。

当たり前だ。大崎甘奈は既に「桑山千雪は自分の思い出の中の『アプリコット』を大切にしている」ということに気がついている。自分に親切にする意図はわからなくても、彼女の心境くらいはわかっているのだ。どこか遠慮がちな大崎甘奈に、桑山千雪も「これは違うのかな」と感じとる。その様子を見ていた大崎甜花も、ユニット内の不和を否が応にも嗅いでしまう。

本編だと思ったよりサッと流されるが、桑山千雪の葛藤は果てしないものだっただろう。桑山千雪は、自分がオーディションに出ることで、大崎甘奈が気遅れしてしまうであろうこともわかっている。今まで応援していた大崎甘奈を裏切ることになるかもしれない。彼女は全力を出せないかもしれない。それどころか、仮に自分の夢が叶ったとして、自分に打ち負かされた大崎甘奈にどんな顔をすればいいのだ?

それでも、桑山千雪はオーディションに出ることを選んだ。それは押し隠していた嫉妬の発露であり、己の原点を見つめ直すことそのものであった。彼女にとって『アプリコット』はアイドルとなった原点であり、アイドルとしての基底であった。過去の『アプリコット』は、憧れた世界そのものであった。そしてその憧れを放っておけるほど、すっかり見ないフリをして、なんでもない顔をしておけるほど、桑山千雪は大人でもなかった。

彼女にとって大切なのは、恐らくカバーガールの座などではないのだ。自分の憧れにケリをつけること。そしてまだ形になり切らない「大崎甘奈に勝って欲しいけど、自分も憧れを前に全力で戦いたい」というもやもやした想いを、なんとか形にするために、大崎甘奈と戦う決心をするのだ。

もちろん、大崎甘奈は激しく揺さぶられる。今までの大崎甘奈にとって、桑山千雪というのはまさに「アルストロメリア」の象徴だった。家族ではないけど、家族のような場所、桑山千雪はまさに、その場所を代表する存在だった。まるで「幸せだったアルストロメリア」が、牙を剥いて襲いかかってくるような感覚に、大崎甘奈は襲われる。「負けるのが怖い」と思うようになる。どちらかが勝ち、どちらかが負ければ、この幸せは何処かへ行ってしまうのかもしれない。象徴が自分を打ち負かしたとして、それでも自分は、あの人は、同じように笑っていられるだろうか?

そして、大崎甘奈は逃げようとする。今まで通り笑っていられるように。ずっと幸せなアルストロメリアでいるために。大崎甘奈は「桑山千雪こそが一番なのだから、それをわかっていながら戦えない」と言うが、この思考は文脈的な観点から見るとやや早急で、前後との繋がりが薄い。彼女が本当に恐れているのは、きっと「アルストロメリア」の崩壊であり、戦うことによる「優しく朗らかな、象徴としての桑山千雪」の霧散だ。

だからこそ、桑山千雪が「やはり自分が辞退する」と切り出した時、はっきりとその行為を否定できないのだ。彼女さえ降りてくれれば、アルストロメリアは崩壊せず、桑山千雪は大崎甘奈にとって、3人の幸せの象徴のままで居られるからだ。大崎甘奈には実のところ、熱意はあれど憧れなんてない。そもそも彼女が物語の中で目標とすべきはカバーガールなどではなくて、今までの世界を壊さないことなのだから。これこそが彼女にとって「一番大切なこと」なのだから。

そして、勝敗は決する。今まで同じ舞台に立っていたはずのふたりは、大崎甘奈の勝利という形で、その舞台から引き剥がされる。「一番大切なこととは何か?」。3人が揃った場所で、プロデューサーは3人に問いかける。

3人は一堂に会し、お互いの想いを吐露する。誰もが自分のことを一番に思い、誰もがアルストロメリアのことを一番に思っている。そのことを3人は再確認する。すれ違っていた桑山千雪と大崎甘奈は、ここでようやく理解する。

アルストロメリアのために、ふたりのために、ふたりは戦わなければならない。勝敗が決まっていたとしても、幸せな結末なんてなかったとしても。お互いが望むことを叶えるために、戦わないといけないのだ。机の上で転がすままでは、形にならない理想のために。

桑山千雪が望み通りに勝ち、桑山千雪が一番だと思う大崎甘奈が勝者となるために。大崎甘奈が望み通りに勝ち、大崎甘奈が一番だと思う桑山千雪が勝者となるために。

傷つくことだってあるかもしれない。幸せが壊れてしまうかもしれない。それでも今、彼女たちの心からの望みを叶えるためには、戦わないといけないのだ。互いの夢を叶え、自分の夢を叶える。その為にひた走ること以上に、誠実で、大切なことなんてあるだろうか? 彼女たちがこのオーディションにおいて、一番大切にしなければならないことは、文脈が自然と指し示している。「お互いに対して誠実であること」だ。

そして、大崎甜花にとって一番大切なことは、「ふたりに対して誠実であること」だった。オーディションの先生に来てもらい、色眼鏡でなく、大崎甘奈を見てもらう。そして同じ瞳で、桑山千雪を見てもらう。それが彼女にとって、きっと一番大事なことだったのだ。

大崎甜花は今回のコミュにおいて、やや蚊帳の外気味である。事の真相を早くに知っておきながら、彼女が桑山千雪と大崎甘奈に対して大きなアクションを起こすことは、最後の最後までない。しかし、彼女がこのコミュにおいて不必要であるかと言われると、確実にノーだ。大崎甜花は何よりも、崩れそうな大崎甘奈を支えていた。誰よりも妹のことを思い、支えようと努力し、時には逃げ道さえ用意し、最後には妹と、もうひとりの“家族”のために、ふたりにとって平等な立ち位置から第三者を呼び込み、アルストロメリア全員の幸せの最大値を導いた。

申し分ない働きであり、この上ない存在意義である。彼女はどんなに頼りなくて不器用でも、どうしようもなく妹思いの姉であり、そして誰よりもアイドルとして、人間として、成長してきたのだ。彼女が“脇役”を立派に果たしている姿を見ると、何故か目頭が熱くなってしまう。もう誰の手を借りなくても、彼女は一人前の脇役だ。大きくなったな、と口をついて出そうになる。そう、アイドルマスター シャイニーカラーズは、成長を描くことを選んだコンテンツなのだ。

誰もがアルストロメリアを強く思っている。誰もがアルストロメリアを一番に思っている。だからこそ、3人の間に嘘偽りなく、お互いの想いを打ち明け合うこと。ハートが外から見えないように覆うベール、薄桃色のカーテンを取っ払って、お互いを理解し合うこと。そしてお互いのために、お互いが全力を尽くすこと。嘘をつかず、誠実なままでいること。それがきっと、アルストロメリアというユニットにとって、「一番大切なこと」なのだ。

そしてそれを理解したからこそ、桑山千雪は言えるのだ。「悔しい」と。大崎甘奈と戦って、負けて、「悔しい」と。「薄桃色にこんがらがって」は、桑山千雪が「悔しい」とちゃんと言えるまでのお話なのだ。最終的にここに帰結するからこそ、今回のコミュにおいての主人公はやはり、桑山千雪なのだ。


・未来へ


桑山千雪が今回のオーディションで得たのは、決して大崎姉妹との絆だけではない。変わるために踏み出した一歩は、確実に未来へ向いていることが、【ドゥワッチャラブ】のコミュを見ても確定的に明らかだ。変化の証として、桑山千雪は「アプリコット」と決別する。確かに原点は「アプリコット」だったかもしれない。だが、アルストロメリアと共にある桑山千雪なら、変化していき、原点から外れても、きっとアイドルで居られるのだ。

おまえたちは永遠を信じているか? 変わることなく続く存在を信じているか? 変わることなく続いていくものなどない。なら、変わりながら、時にぶつかりながら、お互いに気づきながら、続いていけたら……。おれはそう思う。

(三楼丸)

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