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本格ミステリー 密室殺人事件 知念実希人著「硝子の塔の殺人」を読んで

2022年本屋大賞ノミネート作品10作品が、2022年1月20日に発表されました。

ここ3年、この時期になるとノミネート作品を読んで、大賞を予想するのが、私の恒例行事になっています。

その中で、最もページ数が多かった、知念実希人著「硝子の塔の殺人」(498ページ)から読み初めることにしました。(私のタスク達成のための法則で、困難なほうからやり上げるみたいな感覚です……変ですかね)

「読みたい本ランキング1位」と本の帯に書かれていて、期待がふくらみます。

著者知念実希人氏は、1978年生。医師としてのバックグラウンドをもとに書かれた作品が多く、坂口健太郎主演で映画化された「仮面病棟」が、思い出されます。

過去の本屋大賞でも、2018年「崩れる脳を抱きしめて」(8位)、2019年「ひとつむぎの手」(8位)、2020年「ムゲンのi」(8位)などの作品がノミネートされています。

今年こそは、大賞受賞かの期待がかかる作品ですかね。

 事件は、人里離れた、雪深い森での出来事。

地上11階、地下1階、 ひときわそびえる円錐形のガラスの塔。そこで起こるミステリー。

登場人物は、この塔の主、その執事とメイド、料理人、主治医、自称名探偵に編集者、霊能力者、小説家、刑事の10人です。

これは、まさしくアガサクリスティー著「そして誰もいなくなった」のバージョンかと思いきや、なんと最初に殺人現場が描かれる。

そうか、ならば、「刑事コロンボ」の手法でいく、犯人の殺人トリックを解き明かしていくバージョンかと思うに、またまた、意外な方向に話が展開していく。

最初の殺人犯のいつ犯行が明るみに出るのか、うまく隠し通せるかのヒヤヒヤ感。そしてさらに起こる殺人の犯行者は誰なのかと、何重にも楽しめるストーリー展開です。

前半は、まさしく王道の密室殺人事件。

すらすらとテンポよく読み進めることができました。

私のなかで面白い本の条件は、後戻りすることなくスラスラ読めるということです。その意味では、間違いなく面白い作品でした。

又、人物の名前が、 霊能力者が「夢読水晶」、 執事が「老田真三」、料理人が「酒泉大樹」 など連想しやすいネーミングの付け方も、後戻りして読み返すことがなくすんなり物語に入っていけた理由の一つです。作者の読者への心遣いを感じます。

ミステリーの面白さの一つが、どこに伏線がはられているのか、誰が犯人なのかを推理しながら読み進めることだと思うのですが、この作品の結末は、私のようなミステリー素人にはまったく予想もつきませんでした。

ミステリーおたくの方に、是非ともこのトリックに挑戦していただきたいです。 

横溝正史やシャーロックホームズのシリーズでお馴染みの古典ミステリーで感じていた、ジメジメとした陰湿な暗いイメージがなかったです。

ミステリーは、そういうものだと思っていたのですが、この作品は、近代的建造物で起こる殺人事件。それも硝子の館。そのせいか、カラッとして明るい印象でした。

自称名探偵とその相棒に選ばれた助手との掛け合いが面白く、シリアスな中にも笑える部分があり、そういったこともこの作品がじめっとならなかった要因だったように思います。

この自称探偵もなかなか癖のある人物で、鼻につく人もいるかもしれませんが、こういうシチュエーションでのアクのある登場人物、私はきらいではありません。

又、作品中随所に散りばめられているミステリー談義も興味を引きます。

小学生時代に図書室のシャーロックホームズを読破し、その後もアガサクリスティ、エラリークイーン、横溝正史などを読んできました。
一度その作家の作品が面白いと思うとシリーズを順次読み進めていました。話題になったミステリーも、ちょこちょこ手を出していたので自分は、そこそこミステリー知ってるぞ、なんて思っていたのですが、とんでもありません。

まだまだ、聞き覚えがあっても読んでない作品が、多々あります。
ミステリーファンには、こんな会話部分もたまらない魅力になるように思います。

そして迎えるクライマックス。最後の100ページにこの作品の醍醐味があります。

一気読みをしました。

「おお、そうくるか」「おお、そうきたか」思いもよらない結末でした。最後の一ひねりを是非とも味わってほしい。

前半のそこそこのスピードから後半へ向かって、謎解きからは、一気に加速して読み終えました。感想は、一言「あー、面白かった」でした。

本の帯には、島田荘司氏が 「同作の完成度は一世を風靡したわが「新本格」時代のクライマックスでありフィナーレを感じさせる。今後のフィールドからこれを超える作が現れることはないだろう。」と述べておられます。

そして、その「新本格」とは、綾辻行人著「十角館の殺人」を指すのですが、私は偶然この作品を「硝子の塔の殺人」を読む直前に読むことができました。

地域の図書館に予約を入れて約1年後にやっと読むことができたのです。

1987年に出版され、30年もたった今でも、衰えない人気に驚きました。

この「十角館の殺人」は、「死ぬまでに読みたいミステリーベスト10」などのブログや書評などで何度となく目にして、是非とも読もうと思って予約をいれた作品です。
「十角館の殺人」は「新本格ミステリー」という新しいジャンルの先駆けと位置付けられる名作です。ミステリー界では、「綾辻以前」「綾辻以降」という言葉が使われるようになり、この作品に端を発してその後30年にわたる新本格ミステリーの礎となった作品です。

「硝子の塔の殺人」と「十角館の殺人」を読み比べてみるのも面白い。

「硝子の塔の殺人」の目次では、一日目、二日目と続いていきます。「十角館の殺人」でも、一日目・島、一日目・本土、二日目・島と同じような目次形式になっています。

「十角館の殺人」を意識されての構成ではないかなと思うのです。

そして、島田荘司氏が言われるように、この「硝子の塔の殺人」が新本格ミステリー の集大成であるならば、たまたまこの二つの作品と同時に出会えたことは、非常に嬉しい出来事です。
そして、「硝子の塔の殺人」のクライマックスのあり方が次のミステリーブームを示唆する展開となるならば、次に続くミステリーがどんな形になっていくのか非常に興味深いです。

文学史を踏まえて、作品を振り返りアプローチしてみるというのも、私が今回初めて知った読書のあり方でした。

まさしくミステリーの王道をいく前半から次のミステリーブームへと繋いでくれる後半の展開。

この「硝子の塔の殺人」が、次のミステリーブームのターニングポイントなることを応援しています。そうなれば、今回この作品との出会いは、私の読書の一生の思い出になること間違いなしです。



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