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写真集制作の雑記

 今、ちまちまと写真集を作っています。
 これは今年の目標のひとつだったので、楽しみながら苦労しています。

 内容はここ10年くらいの写真を中心に、デジタルカメラで撮影したものを綴っていて、81枚を選び出しました。
 過去にこのnoteでも紹介した写真も入っています(下の写真は関係ないです)。
 カラーもモノクロもあり、縦横比もいろいろ、つまりいつもながらのことですが、次へ向けての実験をいっぱいやってます。
 撮影した内容も旅がテーマで一見まとまりがないのですが、そこから私が見た日本の姿をパズルのピースのように連想していくスタイルになっています。
 きっとこのスタイルを続けていけば、いつの日か、私の中の日本が完成するハズ、というスタイルです。先が長いなぁ。。何ピースあるんだか。。

 とくにこの中で重要な実験として、以前からちょくちょく愚痴っているように縦横比のテストを行っています。
 4:3と1:1の写真を使っていて、どちらがどのような印象になるのかを試しているつもりです。台紙はスクエア。
 1:1はやはり配置しやすいなぁと感じています。
 レイアウトというのは本当に難しくて、余白を作る場合、作らない場合、上下だけ、左右だけ、全体、右だけ、上だけ、といった余白を配置すると、全て印象が変わります。これにいつも頭を悩ませるわけです。
 写真集のノド(中央)がどちらに来るかでも、変化します。
 写真集ならではの、心理戦術です。
 今回は1:1は全て余白無しの全面使用、4:3は左右余白無し上下余白ありのレイアウトにしてみました。余白無しの部分に関しては断ち切られるため、当然本来撮影した部分が切れてしまうわけで、ちゃんとした写真集を作成する場合にはこれを嫌って全て余白ありで作る人の方が多いのではないかと思うのですが、私はこれがイヤなのです。
 何と言うか(超個人的な偏った見解で申し訳ないのですが)商品見本のように見えてしまって、どうにも面白みがないように感じてしまうわけです。
 やっぱりせっかくなら、写真集ならではの心理戦術を使ってみたいのです。

 余白が無い部分は、そこから広がりを感じるように人間の脳はできています。これは私がさんざん「感動の仕組み」で述べているように、不足する部分や不鮮明な部分を見た場合、人間の脳が鑑賞者の過去の経験や記憶から映像を補完することで、そこからの広がりを感じるわけです。
 人間の脳は映像を補完すると、補完した映像から紐付けされた過去の記憶と感情が引っ張り出されるため、感動が大きくなります。
 しかしその分、どこに余白を作るかでイメージは変化するため、これが難しい。

 さらにどのくらいの大きさにプリントするかによっても、がらりとイメージが変わります。
 プリント面を目の前に広げたときの鑑賞距離と版面の大きさから得られる視野角は、撮影するレンズの焦点距離と無関係ではありません。
 ある程度は人間の脳の中で変換されますが、やはり違いがあるのです。
 もちろんここまで考慮するとややこしすぎて頭が痛くなり、制作活動が前に進まなくなるのですが、せっかくプリントするならこの微妙過ぎる心理戦術も使ってみたいじゃないですか。
 写真集はエンターテイメントでいいと思っています。

 私がフルサイズ換算で35mmではなく38mm付近のレンズを頻繁に使う狙いのひとつは、目の前30センチくらいの位置に写真集の版面を展開した場合、若干通常よりも狭い視野角を想定していて、その視野角から臨場感を感じる焦点距離を割り出しています。
 でもそれだとどうしても少し狭い印象があるため、それを補うために左右や全面を断ち切って、そこから先は鑑賞者の想像力に委ね、足りない広がりを補うという心理戦術です。
 もちろんそう簡単にうまくいくものではなく、これが難しいと同時に、作っていてとても面白い。

 写真というものはどこか非現実的なものであり、その非現実性は鑑賞者を突き放そうとします。そこにうまい具合に臨場感という現実味が混じれば、脳の映像補完を利用して鑑賞者の記憶にアクセスすることが可能になり、写真は現実性を取り戻し、不思議な感動空間が出現すると考えています。
 それが私の旅の感動に近いのではないかと考えて、四苦八苦しながら再現を試みているわけですが、いやはや、難しい。チョー難しい。
 30年以上前に組み上げた理論を延々と未だに試しているのですから、カメよりも遅いスピードです。我ながら笑ってしまいます。
 同様に全ての写真には、ノイズを加えています。ノイズの種類は様々で、人間が意識しないレベルでの不鮮明さを造り上げ、そこに無意識化における脳の映像補完を生み出す狙いがあります。
 うまくいけば、やはり感動を生み出す隠し味になると思っています。
 日本刀の刃の上を、バランスを取りながら歩いているみたいです。
 でも楽しいですね。


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