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山で会うヒグマ。

良い出会いを求めて、ひたすらに歩くということ。

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Hokkaido Japan / Sep.2017


9月初頭、日没間近。
稜線上にいた僕は、重いザックを背負ってテント場へ急いでいた。

突如「バキバキ」と木の枝を折るような断続的な音が耳に入った。
辺りは既に薄暗い。静かにクマスプレーを構え、やりすごそうとした。

ヒグマは遠ざかることなく、高山帯の硬い茂みの中から
僕の目の前に出てきた。そのクマはなかなかの体格で、
高山の風景の中に王者の様な存在感で良く映えた。

距離は20m程だっただろうか。
目が合った直後、彼がどう出るか
スプレーを構えたまま僕は待った。

彼は僕に一瞥をくれると、ゆっくりと通り過ぎて行った。
その穏やかさを確認してから、スプレーを構えたまま
数枚シャッターを切る。彼はやがて別の茂みの中に姿を消した。

高山帯は見晴らしが良いように感じるが、ヒグマが身を隠すような場所は
実はいくらでもある。常に油断はできないと考えていい。
しばらくじっとして、彼の存在感が消えたのを確認してから、
ようやく僕は安堵した。

写真は被写体との距離感が最も重要な一つだろう。
撮りたい写真には、それに合わせた距離感がある。
今回の場合は、それが近過ぎた。それから時間帯的に光量も不足していた。
ベストとは言い難い。でも得難い出会いであることに間違いはなかった。

相手が野生動物の場合、
被写体との距離感をコントロールすることは難しい。
広大な山肌の中で、撮影機材を構えて
彼等に理想的な距離で出会うというのは
いったいどれほどの確率になるのだろう。
彼等の生態や山の植生を調べ、彼等をできうる限り理解した後は
幸運を待ちながら山を歩き続けるしかない。

出会いは一瞬だった。
2012年、山の上でのヒグマの姿を撮りたいと、
テントを背負って夏の山に登るようになってから
ちょうど5年の月日が流れていた。


いただいたサポートは、旅費や機材など新しい撮影活動の資金とさせていただき、そこで得た経験を、またこちらで皆様にシェアしていきたいと思います。