『創造的でなければ死んでるのと同じ』 夏野剛✖️松本徹三 対談連載 6. 日本の市場と会社の限界
2021年10月26日(火)に開催された「Invent or Die - 未来の設計者たちへ:第11回 夏野剛 x 松本徹三」の書き起こしです。
通信業界の黎明期に、ソフトバンクとドコモで活躍。現在、日本の携帯電話の礎を作ったと言っても過言ではない二人。夏野剛と松本徹三氏が日本の未来に関して議論します。
6. 日本の市場と会社の限界
司会:ありがとうございます。すごく素敵な夢を語っていただいて。私もそれを聞いて、さらにもう1回読み直そうって思います。科学技術の話とか国際情勢の話とか、とにかく小説としても楽しめるし、知識とか教養とかの本としても楽しめる本だったので。夏野さんも読まれたと思うので、なるほどと思い当たる節とか、逆に、夏野さんが若い人に与えたい夢とか、松本さんのお話を聞いて、何か今考えてらっしゃることってありますか?
映像化する事で想像力を助ける
夏野氏:この近未来SFのジャンルって、今NetflixとかAmazonプライムでもどんどんドラマ化されてるんです。僕の時代はそれを本で読んで、本で読むことによっていろいろ考えながらやっていたけど、今はすごいお金をかけた、すごいCGを使い、すごい映像を作って。でも、映像で入ってきても同じことを考えてくれるのかもしれないと、僕ちょっと思ってます。特に、このコロナ禍で僕も仕事をいっぱいやっていますけど、結構暇なんです。暇だと本も読むけど、こういうNetflixのドラマとか見る。すると、例えばこの『2022年 地軸大変動』がドラマ化、映像化されると、想像力がない人でも分かるようにドラマ化されると思うんです。それって、SFって一定の知的レベルがないと、想像がついていかないところがあって。だから、結構読者層が一般に広がらなかったりするんだけど、それが映像化されることによって、より広い層に、特に松本さんが言ってた若者に広がると、それはそれでいいなってすごく思っていて。
僕は、本で読むことのすごいところは、どんなすごい監督が、どんなにお金をかけて映像化するよりも、ちゃんと分かる人は頭の中で実現化するので、人間の想像力をフルに活用するんだけど、必ずしも全員が全員そうならないので。そういう意味で言うと、映像化されるっていうのは良くって。
今のこの動画、サブスクリプションサービスが全盛時代になって、どんどん新しい作品が映像化される時代になったときに、SFっぽいものが実際すごく多いんですよ。NetflixやAmazonプライムとか。だから、これいいなと思ってて。この『地軸大変動』は映像化してほしい。
松本氏:ありがとうございます。ぜひお願いします。
夏野氏:2時間の映画では語りつくせないので、これはドラマがいい。
司会:そうですね。それは賛成です。
松本氏:ドラマ化するならこんなのが良いだろうっていうのは、12話に分けて一応作ってあるんですよ。本であれこれと書いてあることはばっさり切り落として、アクション化出来そうな「さわり」だけ。
夏野氏:ただ、めっちゃ金かかりそう。
松本氏:金がかかる。
夏野氏:そういう意味では、今日的な作品だと思う。
日本市場の限界?!
松本氏:韓国はその辺りは立派ですよ。僕もこの前、Netflixで『イカゲーム』を見たけど、面白かったです。イカって、韓国語では「おじん」っていうんです。だから「おじんゲーム」になるんだけど。彼らは初めから世界市場狙いじゃないですか。携帯電話機でも。自国の市場は小さいから、サムソンでも昔のLGでも、初めから世界市場を狙ったんです。日本人は、国内マーケットがある程度あるから、まずそれを狙っちゃう。
こんな小説を映像化しようと思ったら、目の飛び出るような金がかかりますから。中国は自国市場の規模が日本の10倍ありますから、彼らならできるかもしれませんが、日本では映像化はとても無理でしょう。初めからNetflixかどこかと話して、韓国人がやってるみたいに世界市場で見極めをつけないと、そろばんは合いません。そう思いませんか? 夏野さん。
夏野氏:道は長いと思います。何でかというと、韓国がそこでマインドチェンジした最大のきっかけは1997年の財政破綻なんです。財政破綻してIMFが入って、結局何をしたかというと、一斉に財閥の整理をやったわけです。サムスンはあのとき、自動車産業に参入しようとしただけど、そんなのはやめさせて、自動車はもう現代と起亜だけとか、家電はこことここだけとか整理をしたんです。
日本なんか、いまだに炊飯器作ってるメーカーが10社ぐらいあるんです。日立とか東芝っていう原発を作る会社まで炊飯器を作り続けている。炊飯器の市場どれだけでかいんだって思うんだけど。掃除機だって、ダイソンとそっくりな掃除機を日本の大手メーカーが作ってたり。現状維持なんです。そんなん全然採算も合わないし、もういいじゃん、それ統合すればっていうようなものを全部残すから。そうすると、国内の市場での競争があまりに激しすぎて、価格競争になっちゃって、みんな利益が出ないから成果転換できないんです。携帯電話メーカーって10社ぐらいあったのが、10年でほぼ全滅しました。
これは、みんな30年、40年も同じ会社でずっといるから、その会社を維持することが最大の目的になってしまって、競争とか戦略とか全然どうでも良くなっちゃってるんですよね。
トーナメント戦を勝ち抜いた経営者
松本氏:夏野さん、もっと言うなら、会社どころか「自分の課」ですよ。「そんなことやったらこの課はつぶさなきゃいかんじゃないか。君はこの課をつぶせというのか」と、こう言われるわけです。だから、何とかその課が生き残っていくために、小さいマージンででも続ける。こういう話が多いですよ。
夏野氏:確かにね。何か変なんですよね。会社のためとかじゃないんですよ。
松本氏:トップがしっかりしてないから。「この仕事を続ければ君の課は生き延びられるかもしれないけど、君の課が生き延びるだけじゃ何の意味もないんだ。だから悪いけど死んでくれ」と、そういうことが言えるトップがいなきゃいけないですよね。
夏野氏:今は、命は取らないからね。
松本氏:命は取られないから万事甘くなるんですよ。しかし、死ぬよりもっといいのは、スピンオフして、自分らで小さいオーバーヘッドで仕事を続けることです。会社の方も「それなら支援するよ」と言ってやればいいんです。でも、日本の会社は、見ていると相当経営が駄目ですね。
夏野氏:そうなんですよ。
司会:この現状は、今からこの先も続きそうですか?
夏野氏:それを変えるために、政府の方がコーポレートガバナンスコードとか、社外役員の義務付けとかを一生懸命して、民間の企業がなかなか変わらないのを変えようとしてるっていう、滅茶苦茶な状況に今なってるんです。
松本氏:突き詰めていくと民間が悪いんです。サラリーマンの優等生でトーナメント戦を勝ち上ってきた人だけが上の方にいますから。「次の部長を誰にするんだ」となると、どうしても安心・安全な方が選ばれます。私自身だって偉そうに言っていても、やっぱり自分がやったときは「あいつは面白いけど、ちょっと怖いからなあ」と思って、安心な方を取っていました。それでトーナメント戦を勝ち残ってきた経営者では、大胆な改革は無理でしょう。だから今、個人企業でワンマン経営の方が成績はいいでしょう。日本電産だとか、ユニクロだとか、個人経営の会社の方が強いですよね。
7. これからの日本!若者は、学校や会社を利用しよう
(最終回に続く)
『創造的でなければ死んでるのと同じ』 夏野剛✖️松本徹三 対談連載1〜7
1. 地獄を知っている二人!?
2. 迷った時は遠を見ろ
3. 海外から見た日本
4. AIの未来、人類を救うのは!?
5. 知識の幅を広げよう
6. 日本の市場と会社の限界
7. 若者よ、会社や社会をハックせよ!
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