「Web3がもたらす未来を考える」中島聡×塚田学対談・前編
2022年11月26日(土)に行われた、第一回Nouns Art Festival「愛、平和、もしくは持続可能な地球(SDGs)をテーマにしたオンライン・アート・フェスティバルの表彰式に行われた中島聡氏×塚田学氏による対談の書き起こしになります。
「Web3がもたらす未来」は、どうなっていくのか語っていただきました。
前編(後編はこちら)
自己紹介
小平:シン・オープン・ラボのフェローをさせて頂いている、小平と申します。それでは、お待たせいたしました。中島聡さんと塚田学さんの対談を始めたいと思います。
メインテーマは、「Web3はどこから来たのか?そして、どこに行くのか?」時代がどう変わっていくのか、熱いお話をしていただきたいと思っております。
皆さん、ご存知かもしれませんが、中島さん自己紹介と近況をお願いいたします。
中島:高校生のときからプログラムを書いていて、少しアスキーで働いた後、Microsoftに入って、アメリカに渡りWindowsの開発をしました。その後、自分で会社を作って売却を2回やりましたが、やはり僕はプログラムを書くのが好きだと思って、最近はまたプログラミングに専念しています。という、生涯プログラマーの中島です。(中島聡Wiki)
小平:ありがとうございます。続きまして塚田先生、自己紹介をお願いします。
塚田:東京大学の准教授を勤めております、塚田学といいます。慶応義塾大学のSFCに、2001年インターネットが普及して少し経った頃に入学し、インターネットにすごく惹かれて、研究をしていまいした。学部修士、慶応のSFCを出た後にフランスに渡り、IoTや自動運転を助けるネットワークの研究をしていました。現在は、自動運転を助けるネットワークと、東京大学に来た9年前2013年から、新しいテーマを立てるために始めた、AR/VRのネットワークの活用(映像音声関係)の研究をしています。最近は、メタバースとか、Web3はどうなの?とよく聞かれるので、一生懸命勉強しているところです。よろしくお願いします。(Tukada Lab)
Web3の現状とこれから
小平:よろしくお願いします。
中島さんが『中学生にも分かるWeb3』というのを、ネットでお書きになりました。どういうことでこういう本を書かれたのか、教えていただけますでしょうか。
中島:Web3やクリプト業界のことは知っていましたが、しばらくは何となく外から眺めていたんです。暗号通貨は買いましたが、値段が上がったり下がったりするのが嫌いなので売りました。最近は特に、DeFi・PlaytoEarnやNFTなど、いろいろ面白いアプリケーションが出てきているが、何が起こっているのか外から見ているだけでは分からないので、自分でプログラムを書こうと手を動かしたのが今年の3月ぐらいです。そこからどっぷりハマって、今は、Solidityのプログラミングを毎日しています。
そこで分かってきたのは、結構Web3業界はでたらめだということ。Web3と言いだした人たちは、Web3の時代になると非中央集権化して、GAFAみたいな会社に支配されないでもっと平等になるとか、トラストレスでトレーディングできる。要は信頼すべき第三者なしにトレーディングができるなどと、美しいことを言っている。でも実際、蓋を開けてみると全然でたらめなんです。例えば、NFTひとつとっても、今世の中にある99%のNFTは、画像がブロックチェーン上になくて外にある。外にあるものを維持するためには、NFTを発行した人が誰かにお金を払い続けなくてはいけない。完全に中央集権なんです。
トラストレスの問題もそうです。例えば、NFTを売買するときに何が起こっているかというと、一番メジャーなOpenSeaという取引所で売買する場合。その中でAPIを呼ぶんですけど、APIを呼ぶときに、まずはNFTを持っている人が、「OpenSeaを全面的に信用するので、僕が持ってるNFTは、OpenSeaが好き勝手にトレードしていいです」って、宣言するんです。その宣言をもらった後に、OpenSeaが市場で、この人は、このNFTを1 ETHで売りたがっていると広告を出す。誰かが「買う」と言うと、1 ETHをOpenSeaは無条件に受け取る。そこに契約は成立していないのです。この人はお金さえ渡せば、OpenSeaはNFTをくれるに違いないと、OpenSeaを信じてお金を渡す。すると、売る側は信じてNFTを自由にしてくださいと宣言しているため、OpenSeaは持っている人から、売るべきNFTを勝手に取り出し、この人に渡し、手数料を抜いた挙句お金を渡す。100%OpenSeaを、両者が信用しないといけない。
だから、今の世の中と何も変わらないのです。例えば、今の不動産取引は、間に信用する第三者がいないと、お金と不動産の交換はできない。それと全く同じことです。でたらめなんです。でも、ポテンシャルはあるし直せると思ったので、今一生懸命、直しているところです。
小平:塚田先生、どうですか? 今の話を聞いて、ポテンシャルはあるし直せる糸口が見えてきているという話ですが。
塚田:私も同様に考えていて、穴ぼこがいっぱい空いている状態だと思っています。
例えば、データがブロックチェーンネットワーク上にないというのは、外部にデータがあるわけで、それを紐づけるときに信用が必要になります。あるブロックチェーン上で完全だったとしても、他のブロックチェーン上では違う管理がなされていて、同一のものを二つのところに紐づければどうなるのか。今、通貨として上手く動いているため、いろいろできるように思いますが、ブロックチェーンのネットワークにいろいろ紐づけるときには、多くの問題がある。著作権管理だとか、本当にできるのかというところもあります。
ただ、本当にできるのか?や、所有もすごく重要だと思うのですが、みんながそれでもいいと言ってしまえば、そこには価値が生まれる側面もあり、ビットコインがそうだったと思います。最初に出てきたとき、コンピューターに裏付けされたデジタルデータを持って何がうれしいのか?と言われていましたが、いろいろ買えるからうれしいと、後付けされました。みんながそれをうれしいと思うと、後付けで価値が出てくるので、今、穴ぼこだらけだからと言って駄目かといえば、そうではない。人間がどう受け取るかが、重要だと思います。
透明化された世界がやってくる
小平:人間がどう受けるか。Web1.0は一方通行、Web2.0は双方向性、Web3は分散型で、みんなで仲良くと言うとおかしいですが、みんなでちゃんとやっていこう、フェアにやっていこうだと思います。
今日は、中島さんが提唱したSDGsを含めた映像のコンテストですから、クリエイター・アートの側面から今後をどういうふうに考えればいいのか、新しくどうなっていくのか。スマートコントラクトを含め、中島さんのご意見をお聞きしたいです。
中島:ブロックチェーンはツールなので、どう使うかが重要です。僕が一番素晴らしいと思うのは、普通にAPIでお金を簡単に動かせ、ものすごくコストが安く、透明化されるところです。契約書の代わりにプログラムが書いてあって、それが自動的に実行される。だから例えば、契約書通りに、ロイヤリティの分配がされることが保証されている世界が可能です。特に、映像のようにたくさんの人が関わって作っているものの売上を、どう分配していくか。例えば、今だとコストが高すぎて、照明だけしていた人に、ロイヤリティを渡すことができないわけです。でも、そこにブロックチェーンを上手く置きさえすれば、照明、それも30分しかやらなかった人は、売上の1万分1しか行かないものの、ちゃんと分配されるようにプログラムが書かれている世界も実現できる。経済の仕組みが根本から変わるぐらい、革命的なことが起き得ると思うんです。
ただ、実際に売上の部分、出口の部分を実世界と結びつけるのが難しいですが、そこさえ解決すれば、その後のお金の流れ方が、本当の超革命が起こるので、僕は是非ともそこを起こしたいと思います。
小平:なるほど。塚田先生、アカデミックサイドから教育も含めて、どういうふうに思われるでしょうか?
塚田:透明性のところは面白いですね。税制に使うとか、お金の流れは一生懸命調べても、不透明な部分が残る。それがガラス張りになった方がいいというのは、私も同意します。全部ではないかもしれませんが、例えば公金、みんなのお金のようなものはガラス張りになった方がいい。そういうコンセンサスはあると思うので、そういう面での活用は非常に面白いなと思います。
教育、人材育成でブロックチェーンに取り組んでいる人もいますが、体系だった教科書がないので、今のところハンズオンすることが、一番効率がいい人材育成だと思っています。
新しいビジネスモデルが業界を変える
小平:中島さん。アートで言うと、グローバルスタンダードを作らないと、バラバラでやってもしょうがないと思うのですが?そこら辺は、どういうふうに考えてらっしゃいますか?
中島:それは逆で、例えばWeb3時代のレコード・レーベルみたいな会社が多分誕生してきて、そこがうちの売上は、こういう形で分配しますとスマートコントラクトを公開してしまって、そのスマートコントラクトがフェアだと思うアーティストが参加する。それによって、その会社が成功する。そういうオープンな流れになると、僕は思うんです。
だから、業界標準とかではなくて、あまりにもオープンだから、フェアじゃないところは勝てない。自然に消えていく。フェアなとこだけが残っていくという世界が、理想じゃないかな。
それは、ポテンシャルとしてはあると思うんです。これから音楽業界も、既に1回大きなインターネットのインパクトを受けて変わったけど、もう1回ドンガレが来るのではないか。そのときはおそらく、いつもと同じように既存のレーベルが新しくなるのではなくて、新たなところが生まれてきて、そこがビジネスを彼らから奪っていく。
小平:誰でも、ミュージシャンであれば、Web3を使ってビジネスができるということですよね?!
中島:音楽業界にそんなに詳しくないですが、例えば、CDが1枚売れた時、売上からアーティストに入る量はものすごく少ないじゃないですか。5%とかでしょ。それが60~70%になる時代が来ると。それを実現してくれるレーベルが、アーティストにとってみれば魅力的じゃないですか。それがスタンダードというのではなくて、うちはこういうビジネスをやるからみんな来てと言うと、そこにアーティストが集まるという様になるべきである。
小平:いろいろなアイデアが出てきて、いろいろなビジネスの形態が変わってきて、いろいろできるということですね。
中島:そうですね。既存のビジネス、例えば出版社やレコード会社を、Web3の技術を使うことでぶち壊す会社が誕生する。そこがアーティストたちにとって、もしくは作家にとって魅力的だから、そこが産業として盛り上がり、最終的には売上の6~7割が彼らに行くようになる。それが美しい流れかな。
小平:塚田さん、今の意見どういうふうに感じますか?
塚田:多分、話題が二つあって、最初標準化の話をしていたと思うんですけど、その話と音楽の話、二つ今トピックがあると思いました。
標準化の話で言うと、私は標準化というよりは、デファクトスタンダードをめぐる戦いか、もしくはブロックチェーンのネットワークが混在する環境になると思う。それがどういう世界なのかというのは、今は分からないのですが、一つのリスクとしては、ネットワークはフラグメントするとインパクトが低減していく可能性もある。インターネットは一つのインターネットになったから、ここまでのインパクトが出せた。情報の流通がたくさんのネットワークにフラグメントすると、ポテンシャルを活かしきれない可能性が一つあると思いました。
音楽の話で言うと、私も音楽業界に詳しいわけではないのですが、今、アーティストの取り分が低いというのは、版権を持っている、資本投下した人が一番偉いということになっている。資本投下するということは、それを使って機材を調達して、ミュージックビデオを作って広告する。だから、最初に資本を投下した人が大部分を持ち、アーティストの方は実際に働く人ということで配分がすくない。その流れが変わるとすると、新しいモデルを作らないといけない。ブロックチェーンだけの解決ではないと思います。
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