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モモちゃんの笑顔

執筆者:上田光子

晴れ晴れとした表情の中にいつものはにかんだ笑顔。大好きな水色のランドセルを背負う姿は、我が子ながらたくましさを感じました。

白いハナミズキを見ながら、モモちゃんはどんな小学生になっていくのだろう、と考えていました。そんな時、私はモモちゃんと二人で生きていく決心をしたのです。

団地の空き室は4部屋。ここにピアノを置こうとか、ここはお風呂が新しくていいとか言いながら見て回りました。天井は低めで、配管が見えていて古いけれど、白く綺麗に塗装されていました。ふんわりと太陽の光が部屋全体を包んでいました。

すると玄関から、「こんにちは!となりのおばちゃんだからよろしくね!」と明るい声がしました。突然飛び込んできたご婦人の声が、何とも温かく柔らかくて。

いつしか冷たく大きな塊になっていた不安が、一瞬にして溶けていくのを感じました。
モモ・ママ会議で満場一致、この部屋から新生活がスタートしました。

子どもは順応するから大丈夫、と友人から聞いていた言葉通り、モモちゃんは新しい学校、クラスにも慣れていきました。いつもと変わらないモモちゃんの笑顔に、私の不安な気持ちも軽くなりました。

私は慣れないフルタイム、会社の人の名前を覚えるのも一苦労、脳みそフル回転で毎日必死に働きました。

色とりどりのフルーツにサイダーを注ぎ、自分でフルーツポンチを作る!とご機嫌なモモちゃん。笑顔でいると決めたことを忘れかけそうになった時、モモちゃんの笑顔にハッとさせられることが幾度もありました。その度に、母親として情けなさを感じました。

自分で仕事をして給与を得ること、好きなことにお金を使えること、贅沢はできないけれど心は満たされて、これで良かったんだと思いました。

そんな生活が1年経った頃、モモちゃんは毎朝泣いて、登校を渋り始めました。私は、モモちゃんの手を無理やり引いて学校へ行きながら、出るのはため息と涙だけ。翌日もその翌日も、モモちゃんは朝からずっと押し入れに閉じこもったまま出てきませんでした。

モモちゃんからすっかり笑顔がなくなってしまいました。泣いているモモちゃんの手を引いて無理やりに学校へ連れて行ってしまったこと、そもそも二人で生活すること自体が間違っていたのか?と自問自答しても逃れられない現実に、心がしぼんでいきました。

明らかにモモちゃんの様子がおかしいと思ったのは、手洗いが止まらないどころか、ドアノブにティッシュをかけ始めた頃です。宿題が終わらないと泣きわめいて、夜中飛び出すことも増えていきました。

スクールカウンセラーに話をすると強迫性障害を疑われ、真っ赤でカサカサになってしまったモモちゃんの手を握って受診することにしました。ところが医師の診断は想像とは違ったものでした。こだわりの強さから「自閉スペクトラム症」との診断を受けました。その後のWISC検査でも、それが明らかになりました。

シングルマザーというだけで大変なのに、その上子どもが発達障がい・・・このまま学校へ行かなかったら?フリースクール?仕事はできるのか?モモちゃんが生きづらさを抱えていたことには気づいていたけれど、私には何ができるのだろう。彼女にとってどんな人生を歩むことが幸せなのかと、突きつけられました。

モモちゃんの笑顔が戻るように放課後デイサービスへ行ったり、理解と協力を得るために学校へ話をしたり、できる限り環境を整えてきました。

小学生になったばかりのモモちゃんが、複雑な気持ちを書き綴った詩があります。初めてこの詩を読んだとき、何とかやり直そうという気持ちも起こりました。でも、もう心が枯れてしまっている。このままでは私が倒れてしまうと初めて危機感を持ちました。

モモちゃんの願うような仲直りはやっぱりできなくて、心からごめんね、と告げるのが精一杯でした。その代わりに、私はモモちゃんの笑顔を守ろうと決めたのです。

そのためには、母親の私が笑顔でいることが大事。家庭という一番小さな社会の中で、子育てをする母親という役割に必死になって、自分の感情は後回し。自分を優先することは母親失格のように思っていました。

その反面、自分自身を生きる私の姿を見せることのほうが、モモちゃんも自分らしく笑顔で生きられるのだろうとも思いました。

そこに気がついたから発達障がいがわかったとき、早くわかって良かった、彼女のこれからの人生の関わり方をよりよくしていくことができると考えました。

障がいがあってもなくてもモモちゃん。彼女を理解する一つの要素でしかないのです。自分に遠慮しないで、思うように生きていいのです。モモちゃんはそれを当たり前のように体現していました。

動物が大好きで、ワンちゃんや飼い主さんと仲良くなって、お散歩をさせてもらったり。のら猫ちゃんのお世話をしているお家へ餌をあげに行ったりと、モモちゃんの世界はどんどん広がっています。

大好きなからあげを、必ず最初に私にくれるモモちゃん。パンにチーズをのせて、焼いて食べるのが今のこだわりで、私の作るご飯はほとんど食べてくれないモモちゃん。

好きなこと、大切にしたいことがはっきりとあり、正直に生きている優しいモモちゃんは素晴らしいなあと思います。毎日あなたに振り回されたり、おしゃべりしたり、本当に楽しいです。自分の器の小ささに気づかされてモモちゃんが羨ましいし、もっと自由でいいんだよなあと思う日々です。いつもたくさんの笑顔と大切な気持ちを蘇らせてくれてありがとう。

モモちゃんとは軽快なダンスのペアのように、これからも笑顔を交わしあいながらダンスを踊りたい、ママはそんな気持ちです。

♪なかなおりしましょう♪ 作詞:モモ
①なかなおりしましょう ままとぱぱとなかなおりおねがいしてね
 どっちかが ぱぱがままに ままもぱぱのことすきっていえばなかよくなれるはず
②みんななかよくすごせるんだね きみのことだいすきだからおねがい
 なかなおりしてくれたらいいな
③ふたりあってなかなおりしてね みんなでなかよくうれしいな
 きみのこえ ぼくのこえききたいな
④おこってるこえはどんなこえだろう らんぼうでいやなきもちになるんだよ
 おこるとぜったいいやだ
⑤おこらなければわらっていられるよ きれいなこえ
 おこるとこわくてわたしもなきそうだね
最後までお読みいただき、ありがとうございました。このエッセイは、NPO法人シングルマザーズシスターフッドのMother's Dayキャンペーンのために、シングルマザーの上田光子さんが執筆しました。
このキャンペーンでは、ひとりとして同じ人はいない、個性あふれるシングルマザーたちのかけがえのない素顔を祝福し「自分を大切にすること」「セルフケアの大切さ」を呼びかけています。「こういう支援て大事よね」と応援してくださる方にはぜひ、ご寄付をお願いしております。ぜひ、Mother's Dayキャンペーン応援ページもご覧ください。

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