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スクールバスの車窓から

53歳になる中年の僕がスクールバスに乗っている。既に息子が幼稚園バスに乗っていた頃の記憶すら薄らいでしまっているのに、今僕はスクールバスに乗っている。

「オヤジ、一緒にツーリングに行こうよ!」
夏休みに帰省してきた息子からの誘いだった。

高校生の頃、学校の規則を破ってまでも取得した原付免許。嘗ては無性にバイクに憧れ、大型バイクに見立てたスクーターに跨り、全バイト代を注ぎ込んでカスタマイズしていた記憶が蘇る。そして気づく。僕は普通自動二輪の免許を持っていない。

大阪で単身赴任をする僕は出張が多い平凡なサラリーマン。自動車学校に通う為にはどうしたら良いのか。来る日も来る日も隙間時間を使いネットサーフィンする日々が続く。そして目に留まったのは、自宅近所にお迎えバスがやって来る自動車学校の存在だ。土日と夜間だけで完結できる。しかも少し課金すれば僕の都合を考慮して全工程のスケジュールを組んでくれる王様コースがある。願ったり叶ったりの学校だ。

学生時代はたっぷり時間があったけれど、恥ずかしながら全くお金がなかった。だから普通自動車の免許を取るので精一杯。そして社会人になり、いつの間にかあれ程憧れていたバイクの存在が遠く薄れていった。

ネットに掲載してある電話番号に電話をしてお話を伺った。はじめは少し考えてから入校しようと思っていましたが、結局その足で学校へ出向き手続きを完了させてしまいました。勿論、課金して全ての希望を叶えてくれる王様コースを選択。だけど今では多少のお金こそはありますが、兎に角時間がない。人生なかなか思い通りにはならないなぁ。だから今回はお金で解決させてやるとニンマリ。

ぎこちない運転教習が続いており、危なっかしくもありながら、何とか最短で第一段階の見極めをパスできました。楽勝だと思っていた平均台でしたが、これがまた難しいのなんのって。何でこんな事ができないのだろうと惨めな気分にさせられながらも、今回の見極めは運だけで乗り切った感じです。

今週は北海道出張だ。暫く教習に通えないなぁ。
汗でベトベトになったシャツを着替え、冷房の効いたスクールバスから夜の大阪の市街を眺めている。

どうやって妻に告白しようかな。絶対に怒るだろうな。
既にバイクの手付金まで払ったって口が裂けても言えやしない。妻の顔を思い出すと背中にヒヤリと汗が流れる。着替えたばかりのシャツがまた汗で濡れ、目眩を感じる。


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。



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