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コミュニケーションって本当に難しい

随分前のことである。まだ営業所長として勤務していた頃の話です。


とある街で単身赴任をしながら営業所長として勤務することになった。当時のチーム員は31名いたのですが、女性社員はたったの2名だけであった。


私たちの業界は製薬業界であり、毎日のように医療機関を訪問して関連する分野の医師や薬剤師に面会し、薬剤のプロモーション活動をしたり、副作用情報を収集することを主な生業としています。


当時、営業所長はMR(製薬会社の営業担当者)と月に7日間の1日同行が義務付けられており、たまたまその日は女性社員と同行が予定されていた。1日同行とは、1日中車の助手席に乗っていなくてはならず、僕にとっては苦痛の瞬間でもあった。同行される方もきっとそうだろうと思います。


彼女とはこの街に着任する前から面識があり、普段から何も違和感を感じたことはない。それどころか、医大卒の秀逸な存在で、学術知識は僕なんかよりも遥かに詳しいので頼りにしていました。


彼女は大学病院を担当しており、同行の日は先日採用になったとある抗がん剤の医局説明会の日でもあった。彼女のプレゼンテーションは非の打ちどころがなく、本当に素晴らしく構成されており、複数の医師からの質問にも対しても完璧に回答して見せた。また、プレゼン後のディスカッションで、この薬剤が同行当日から投与が始まっていたことを知り、満面の笑みで医局を後にしました。


「所長、今日は記念日ですね! 飲みにいきませんか?」


帰り際、病院の駐車場で彼女から突然提案があった。少し迷いましたが、女性とふたりっきりの会食となると、誰に何を言われるのか分からないと考えて、仕事を理由に丁重にお断りをして別れました。


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赴任先の自宅マンションへ戻り、近所のコンビニで購入してきた弁当を食べようとした時、携帯電話が鳴った。電話相手は先ほどまで同行していた彼女からです。そっと電話に出てみると、なんと他の同僚を集めて私のマンション近くの居酒屋で飲み始めていると言う。処方が開始された決起集会と言うのが、この飲み会の建前であっった。


自宅から徒歩1分くらいの居酒屋だったこともあり、断る理由がなく、女性と二人っきりでもないので参加することを約束して電話を切った。


数分後に居酒屋の暖簾をくぐると、既に彼女を含め4名の同僚が集まっていた。中には新婚間もない若手の社員も含まれていたが、急な飲み会にもかかわらず集結するなんて、凄いチームワークなんだなと初めは感心していた。


どのくらい楽しんだのだろうか、そろそろ帰り支度のタイミングに差し掛かった時、若手の男性社員が勢いよく言い放った。


「僕たちは所長の命令には絶対に従います! いつでも今夜のように集合をかけてください!」


「ん?」と違和感を感じた。
隣に座っている社員にこっそり聞いてみると、
「所長が絶対集合だとおっしゃっていると聞いて皆んな集まってます」と。


背中から冷たい汗が滲み出たことを、今でも鮮明に記憶しています。


僕が集合をかけたことになってるのか。だから新婚の彼も急な飲み会にもかかわらず対応して来たんだな。ただただ申し訳ない気持ちと、無理矢理会を企画した彼女への苛立ちを感じた瞬間であった。


「今日は彼女の記念日なんです、初めて彼女の提案通りに薬剤が採用され、患者さんへの導入が開始された日なのです。彼女のプレゼンも素晴らしかった! 急なお誘いにもかかわらず集まって頂きありがとう。でもこれからはこんな急な会は企画しないので、今夜だけは許してください」と締めの挨拶をしてお開きとなった。


あれから十年近く経つだろうか。今でもどうすべきだったのか分からない。その後、彼女は結婚を機に転勤することになったが、それ以降は殆ど接点がない。大きなトラブルにはならなかったが、コミュニケーションって難しいとつくづく感じている。


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最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
引き続き、頑張って記事を書いて参りたいと存じます。🌱


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