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【課題別レポート】子どもの義務教育と高校進学にかかるお金-就学援助制度の現状と課題

シングルマザー支援に取り組むしんぐるまざあず・ふぉーらむおよびジェンダー政策の専門家、研究者らによるシングルマザー調査プロジェクトは、課題別レポート「子どもの義務教育と高校進学にかかるお金-就学援助制度の現状と課題」を公開しました。今回のレポートでは、経済的な理由により就学が困難な子どもを対象とする「就学援助制度」の様々な課題を取り上げています。「義務教育」として、すべての子どもが均等な教育機会を得られるはずが、特に卒園・卒業や新入学の費用は家計にとって非常に大きな負担となっており、教育機会の均等は実現されていません。

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1. 就学支援制度の課題
就学支援制度の対象者のうち、生活保護受給者と同じくらい困窮していると認められる「準要保護保護者」(全国で約124万人)は各市町村が認定基準を規定しており、援助の範囲や程度にはバラツキがあります。加えて、そもそも制度自体を「知らなかった」という方や、前年度の収入が基準となるため、たとえ現在困窮していたとしても対象外になるというケースも見られました。また、学校で使う学用品であっても対象外の費目だったという声や、援助金は数ヶ月後に後払いとなることから一時的にでも工面するのが大変で、その間食費を削ったという声もありました。

2. 就学援助制度の「入学前支給」も費用まかないきれず
就学支援制度の対象費目のうち、新入学にかかる費用を入学前に受給できる制度が「入学前支給」です。文部科学省は本制度の導入を自治体へ促しており、約8割の小中学校で実施されていますが、残り約2割の学校では実施されていません。では、実際にどれくらいの金額がかかっているのかというと、保育園や幼稚園から小学校への卒園・新入学は平均5万円以上(東京:52,083円、東京以外:69,565円)小学校から中学校への卒業・新入学は平均10~20万円(東京:162,500円、東京以外:123,707円)という結果になっています。

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中には、コロナ禍で失業し貯蓄を取り崩して生活しており制服を購入する費用を捻出できない、制服代だけで支給された金額を上回ってしまったという声もありました。本調査では、毎月貯蓄額についても聞いていますが、貯蓄が10万円以下と回答した人は約3~4割となっています。一時的に工面する場合であっても数万円や10万円を超える出費がどれだけ家計を圧迫するか、費用の捻出が極めて困難であるということがわかります。

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3. 就学支援制度対象外の高校進学
入学に必要な費用は、小学校、中学校、高校と学年が上がるごとに高くなる傾向にあります。しかし、現在の制度では高校生は就学援助制度の対象には入っていません。入学時の出費だけでも二十数万円がかかる中、家計への負担は非常に大きくなっています。費用を捻出できず、社会福祉協議会の教育貸付や国民金融公庫から借り入れをしたという声もあり、借金を抱えないと進学できないという状況もあることが見えてきました。

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【鳫 咲⼦ 氏(跡見学園⼥⼦⼤学)のコメント】(P. 35-36)
鳫氏は、本レポートに寄せたコメントの中で、無償であるはずの義務教育に費用負担が発生している点や、制度運用の市町村格差や認知度の低さ、他国における給食や制服の無償化などにも触れています。「子どもが教育を受けるために必要なものを直接子どもに確実に届けることと、教育の場で子ども同士を『支援を受けている子ども』と『支援を受けていない子ども』に分断しないことが重要である。」とし、「そのための財源も現在の就学援助のように市町村の一般財源だけに求めるのではなく、国・都道府県も負担し、全国的に実施すべきである。」と「子どものための財政支出」の必要性を訴えています。


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