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【課題別レポート】シングルマザーの居住貧困―コロナ禍の「ステイホーム」の現実

シングルマザー支援に取り組むしんぐるまざあず・ふぉーらむおよびジェンダー政策の専門家、研究者らによるシングルマザー調査プロジェクトは、8月13日(金)にオンライン記者会見を行い、課題別レポート「シングルマザーの居住貧困―コロナ禍の『ステイホーム』の現実」を発表しました。今回のレポートでは、シングルマザーの住環境に焦点をあて、狭小な居住環境や劣悪な住環境、住居費負担の高さ、住宅政策を利用しづらい状況、そして公営住宅の課題が浮き彫りになっています。

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会見には、葛西リサ氏(追手門学院大学地域創造学部准教授)と、湯澤直美氏(立教大学コミュニティ福祉学部教授)が登壇しました。葛西リサ氏は、会見の冒頭、日本の住宅政策は非常に脆弱であるとした上で、シングルマザーが確保できる住居は低家賃かつ低質となる傾向があり、低家賃とはいえ、低所得であることが多いシングルマザーにとっては、その負担はきわめて重く、家計を圧迫することを指摘しました。新型コロナウイルス感染症が広がり緊急事態宣言が繰り返されるなかで、「ステイホーム」や「自宅療養」という言葉が使われていますが、それが叶わない環境にある人々の存在は可視化されずに放置されたままとなっているとしています。

1 .  狭小な居住環境
本調査で、公的補助のない「民間賃貸住宅」に居住していると回答したシングルマザーの割合は約半数(東京46.6%、東京以外50.4%)を占めていました。比較的低い家賃で住むことができる「公営住宅」が利用できているのは東京、東京以外、いずれも 約2~3割(東京25.7%、東京以外22.4%)でした。また、家賃相場の高い東京では、台所・トイレ・⾵呂・納⼾を除いた、部屋の数は民間賃貸で1〜2室が8割を超えていることが明らかになっています。自由記述では「大学生の子どもがリモート授業で在宅の為、家族3人でワンルームでの生活が苦しい。」「現在の住まいだと1LDKなので子供の部屋を与えてあげることがでない」などが聞かれ、経済的な理由で引っ越すことができないという声が多く寄せられました。

また、住宅の悩みや不安について尋ねたところ「子どもが集中して学習するスペースがない」と答えたのは「民間の賃貸住宅」で約7割(東京69.4%、東京以外69.9%)。「自分や家族がコロナに感染しても隔離するスペースがない」と答えたのは東京・東京以外ともに約8割(東京84.7%、東京以外75.7%)でした。このことからも「ステイホーム」がいかに難しい状況なのかが伺えます。

2 .  劣悪な住環境
加えて、約6割(東京58.2%、東京以外62.3%)が「子どもの声がうるさいなど近隣に迷惑をかけているのではないかと気になる」と回答しました。その他「カビが生える」約4~5割(東京48.1%、東京以外42.4%)、「虫・ネズミ・ゴキブリなどが出る」約3~4割(東京38.9%、東京以外32.0%)など、衛生面・健康面への影響も懸念され、休校による「自宅学習」や「自宅療養」は非常に困難であるということが想像できます。

3 .  住居費負担の高さ
住宅ローンや家賃を支払う世帯の数と、その平均月額を確認したところ、本調査では、東京、東京以外ともに、約9割が住居費(住宅ローン・家賃)の支払いがあると回答。支払い額の平均は、住宅ローン世帯:東京 70,500円、東京以外 45,700円、家賃支払い世帯:東京 56,646円、東京以外 47,107円でした。民間賃貸住宅と公営住宅、それぞれの平均額は、民間賃貸住宅:東京 79,502円、東京以外 56,136円、公営住宅:東京 20,028円、東京以外 23,190円となっています。公営住宅の家賃は東京でも2万円程度と低く、シングルマザーの生活の大きな下支えになっていることがわかります。

住居費の支払いがどの程度家計に響いているのかを調べてみると「住居費を支払ったあと、手元に残る金額」が「0円、もしくは赤字」と答えたのは2割を超え、「5万円未満」と答えたのは約4〜5割(東京48.3%、東京以外38.5%)に上っていました。また、これまでの調査で月々の生活費を支払えているかについても聞いてますが、2020年8月〜2021年6月までの調査で、は約1割が住居費を支払えていないと回答し、東京、東京以外ともに最大で14%が住居費を滞納しているという状況が明らかになっています。

4 .  利用しづらい住宅政策
政府の新型コロナウイルス感染症対策として「住居確保給付⾦」があります。離職・廃業・休業などで収⼊が減少して住居を失うおそれがある⼈に、家賃相当額が、⾃治体から家主(貸主)に⽀給される制度です。しかし、今回調査を行った対象者のうち、住居確保給付金について「知らない」と答えたのは、東京45.7%、東京以外51.5%でした。相談や申請をした結果、受けることができなかったという回答もありました。要因としては、利用要件は厳しいことなどが挙げられますが、基準を超える収入があったとしても、滞納分や日々の生活費をつなぐためのカード支払いにより、家賃の捻出が難しくなるケースも確認され、賃料が低い公営住宅への入居を強く希望する声が上がっていました。

5 .  公営住宅の課題も浮き彫りに
希望していてもなかなか入居ができない公営住宅ですが、その住み心地を尋ねてみると、そこには難点も多くあることがわかりました。自由記述からは「肺の病気を患い、病院の先生に築年数の浅い家に引っ越した方が良いと言われましたが、都営住宅に相談しても『事例がないので他の都営住宅へ移ることは無理』とのこと。」「自治会の活動方法がすごく古いやり方(=自治会費用は振り込みでなく、各部屋のポストに投函、それを班長が集め、会計に渡す。会計はそれを銀行に入金に行く。)でフルタイム勤務のひとり親には負担が大きい。」「古いしボロボロ、修理もしてもらえない。ネズミやムカデなど虫が多い。」「お風呂がバランス釜であったり、洗面所は水しか出なかったり、窓や換気扇は大分ガタがきていたりと、不便な部分、老朽化している部分がたくさんあります」などの声が寄せられました。

6 .  シングルマザーの居住貧困に求められる支援
1〜5の明らかになったことを踏まえ、葛西氏は以下の対策を挙げています。

(1)即自的な対応:住宅の喪失を防ぐ支援を
住居確保給付金や生活保護の利用をより柔軟にー
住まいを喪失することは、単なる物理的な屋根を失うだけではなく、母親の仕事や子どもの成育環境を剥奪することと同義であるという認識が共有されるべきである。

(2)恒常的な対応:家賃負担の軽減と住宅の質の向上を
公営住宅の質の改善、民間賃貸住宅への家賃補助をー
平時より、(シングルマザーに限らずとも)低所得階層は、低質な住宅に依存せざるを得ない構造となっている。狭小で劣悪な環境は、居住者の心身に深刻な影響を与える(早川和夫、岡本祥浩1993)。貧困の世代的再生産を抑止するために、学習支援の必要性が強調されるが、家庭内に学習スペースがないといった居住問題は見過ごされている。劣悪な居住環境の改善はもちろん、住居費負担の軽減のためにも、住まいへの恒常的な支援(公的な住宅手当・家賃補助)が必要である。

【湯澤 直美(立教大学コミュニティ福祉学部教授)のコメント】
感染しても自宅療養というのは、二重の意味で「いのちの問題」だといえます。家庭内感染の可能性に加え、母親が子のケアを行うことで仕事を休むとなれば、仕事喪失のリスクが非常に高くなります。2021年3月の調査では、自身が陽性者や濃厚接触者になったとき、子どもの世話を頼める人が「いない」と答えた人は東京85%、東京以外77%でした。子育て世帯に対する支援の拡充、支援に関する情報を届けていくことが必要です。

加えて、日本政策金融公庫の「教育費負担の実態調査」によると、家計の収入が低い世帯にとって、子どもの教育費が占める割合は非常に高く、3割を超えていました(令和2年度)。住居を喪失しないために、家賃の支払いが優先されるなかで、子どもの教育格差が懸念されます。また、同調査によると、高校卒業以上の子どもがいる世帯のうち、新型コロナウイルスによって子どもの進路へ影響があったという回答は13.7%、その中で「進学をあきらめた(または在学中の学校を退学・休学した)」という回答は8.7%でした。これを低所得世帯に限定すると、さらに高い比率になることが予想されます。コロナ禍が長期化するなかで、住居費用の負担と教育の保障というのは、非常に密接に関わっており、包括的な対策が求められています。


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