【解説】男性ホルモン中のトランス男性(FTM)不正出血の話
子宮卵巣があるトランスジェンダー/ノンバイナリー(TGNB)/FTMで、
「男性ホルモン療法してるのに!不正出血がある。」
という方は多くいらっしゃるかと思います。
不正出血ってなに?
なぜ男性ホルモン療法をしてるのに、出血があるの?について解説します。
【原因】
1.ホルモン不足
ホルモンの量が足りなかった場合、生理が来たり、不正出血が起きることがあります。
→男性ホルモン量や投与間隔を見直しましょう。
2.破綻(はたん)出血
トランスジェンダー男性(FTM)の不正出血で、破綻出血はよく見られます。
破綻出血とは、女性ホルモン(エストロゲン)によって、子宮の内膜が増殖し続け、内膜が一部剥離することによって起こる出血のことです。
長期間男性ホルモンを投与していても、起きる可能性があります。
子宮内膜症などが関係しているとも言われていますが、トランスジェンダー男性の中でどういう人が起きやすいかなど、リスク因子はわかっていません。
男性ホルモン量が十分でも、長期間の男性ホルモン投与後でも起きる可能性があります。
→破綻出血が続く場合は、黄体ホルモン製剤内服などの治療方法があります。
3.子宮の病気
子宮筋腫、腺筋症、ポリープなどがある場合、不正出血が起こることがあります。
ホルモン量を見直しても不正出血が続く場合は、超音波検査(エコー)を受けましょう。
子宮•卵巣をエコーで見て、病気がないか診断します。
→不正出血が続く場合は、子宮卵巣の病気がないかチェックが必要です。
4.がん
不正出血を主訴に婦人科外来を受診された場合。
子宮頸がんや体がん検査を行う場合が多いです。
→不正出血が続く場合、子宮頸がんや体がんの検査を検討しましょう。
5.萎縮性腟炎(いしゅくせい ちつえん)
男性ホルモン投与によって、女性ホルモン量の低下が起きます。
おりものが減り、腟のみずみずしさもなくなり、乾燥が目立ちますね。
腟(ちつ)が萎縮(いしゅく)する=萎縮性腟炎
これにより、出血することがあります。
これは男性ホルモンに伴う副作用ですが、ケアが必要です。
→外陰部オイルケアをしましょう。テストステロンオイルがおすすめです。
6.尿道や肛門から出た可能性
膀胱炎や泌尿器科の病気で血尿が出たり、痔(ぢ)による出血のこともあります。
→泌尿器科や肛門外科を紹介することがあります。
7.初期の妊娠、子宮外妊娠
男性ホルモン療法中でも、子宮卵巣がある場合は、妊娠する可能性はあります。
妊娠初期や子宮外妊娠で、不正出血が起きることがあります。
→腟内射精を伴う性交渉がある場合は、妊娠検査薬を行いましょう。
陽性の場合は、婦人科受診をしてください。
【よくある質問】
Q. クリニックを変えたら、出血したのですが。男性ホルモンの効果は、クリニックによって異なりますか。
A.「このクリニックのホルモン療法だと出血しない」ということはありません。
ホルモン製剤は、会社によって名前が異なる場合があります。
短期作用型男性ホルモン:エナルモンデポー、テスチノンデポー、テストケアデポー
長期作用型男性ホルモン:ネビド、セルノスデポー
クリニックによって、取り扱う製剤名は変わるかもしれないですが、どの薬も成分は同じです。
クリニックを変えたタイミングで、たまたま出血が起きた、ということが考えられます。
Q.ジェネリックだと出血しやすいですか?
A.それはありません。ジェネリックは、先発品と成分は全く同じです。
ネビドからセルノスに変更すると、出血しやすくなる。ということはありません。効果は同等です。
ただし、短期型男性ホルモンから長期型男性ホルモンへホルモン剤を変更したときに、出血することがあります。
Q.不正出血が止まらないので、どんどん男性ホルモン量を増やしています。これでいいのでしょうか。
A.男性ホルモンの過投与は、危険です。
男性ホルモン不足でも、不正出血が起きることはあります。
しかし原因が他にあった場合は、その原因を調べることが必要です。
さらに、破綻出血の場合は、男性ホルモン量を増やしても出血が止まらないことがあります。
男性ホルモン過量投与は多血症などの副作用リスクがあります。
不正出血が続く場合は、男性ホルモンをただ増やすのではなく、一度、医師に相談しましょう。
子宮卵巣があるトランスジェンダー/ノンバイナリー
FTM
婦人科受診について
私は、トランスジェンダー外来を行っている産婦人科医です。
そのため、トランスジェンダー外来ではホルモン療法だけでなく、
婦人科の検査・診断・治療も行っています。
婦人科受診が怖い…..いけない….という方
婦人科診察希望のトランスジェンダー、ノンバイナリー、FTMの方。
ぜひ一度、トランスジェンダー外来を受診してみてくださいね。
【参考文献】