詩『恋心』

題名
『恋心』
(隠しテーマ・楽園)


 最近はいろいろ問題にされているホストクラブ。
 実は私も通っている。

 私は異色で最初からお金が無いことも話しているし、借金も嫌いで性格も生真面目だと知られているからハナから相手にしてもらえていない。
 それでいい。
 月に一回でもいいから彼の声が直接に聞こえる近い距離で彼の様子を見たいだけなんです。

 ここはまさに楽園です。
 女の子はみんな好きな自分になれるのです。
 夢をお金で買う場所ですが、意外と本当の愛だとか運命を欲しがる人が多いように見えるのは私の勘違いなのかな?

 今夜は久しぶりにお店に行くと、シャンパン・タワーなどでお金をバラまいている女性がいた。本当に楽しそうにはしゃいでいた。
 私の彼?を独占して離さない。

「やっと見つけた」

 私はつまらないと店長に文句を言って店を出た。
 そしてスマホで緊急の連絡をした。

 しばらく店の入口が見える場所で吸えないタバコに火をつけて時間をつぶしていた。
 30分後に駆けつけた同僚たちと交代してあとを任せた。

 会社のお金を何千万円も横領して一年以上も逃げていた全国指名手配の女はその夜に店を出たところを逮捕された。

 あれは一年以上もまえ、私が新米刑事になったばかりでみんなに足手まといだと馬鹿にされていた頃です。それでも私は負けん気根性で細かくしつこく聞き込みをしてホストの存在を突き止めた。

 彼女はホストに溺れて横領した訳ではありません。
 きっかけは自分の赤ちゃんに先天性の疾患があり繰り返す手術費が重荷になったことだったようです。しかし赤ちゃんが元気になってからも歯止めが効かなくなっていたようです。
 子供のことなどで押さえ込んでいた欲望が爆発して暴走したのかもしれません。

 そして事件が発覚する少しまえに同僚とたった1回だけここのホストクラブに来て、どうも彼にひと目惚れしたようなのです。もちろん同僚の証言だけでは確証はありませんでした。

 そのホストの彼は客に自分の誕生日を教えていつもプレゼントを要求していたことを私はその後に知りました。犯人の彼女に何月と言ったかは不明だったのですが彼女が真剣に聞いてメモしていたのをホストが覚えていました。
 誕生日は16日。客によって月は変えていたが必ず16日。そして今日は16日だった。
 捜査会議でホストの線は薄いとみんな言っていましたが、私だけが粘っていたのです。

 恋に年齢は関係ない。
 妻だろうが子供がいようが関係ない。
 好きになったら耐えられないのが恋だからです。
 彼女のひと目惚れに私は賭けたのです。

 店を出てからの逮捕は私からのお願いだった。
 彼女の最後の夢だけは邪魔したくなかった。

 昔、推しのアイドルにかなり貢いだ女も、今は更生して刑事になりました。

 


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