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「水道水は危険」というデマに騙されないために

水道水の水質基準


 これまで、宮城県の水道事業を中心に、水道に関するデマを否定するnoteを2回にわたって書いてきた。

 今回は、これまでのnoteに書ききれなかったことの補足として、「水道水」そのものの安全性について資料をまとめて提示させていただこうと思う。

水質基準

 過去のnoteでご説明したように、日本の水道はすべて「水道法」という法律に基づいて敷設・管理されている。
 水道水の水質基準については、水道法第4条に定められている。

第4条(水質基準)
 水道により供給される水は、次の各号に掲げる要件を備えるものでなければならない。
 病原生物に汚染され、又は病原生物に汚染されたことを疑わせるような生物若しくは物質を含むものでないこと。
 シアン、水銀その他の有毒物質を含まないこと。
 銅、鉄、弗素、フェノールその他の物質をその許容量をこえて含まないこと。
 異常な酸性又はアルカリ性を呈しないこと。
 異常な臭味がないこと。ただし、消毒による臭味を除く。
 外観は、ほとんど無色透明であること。

 前項各号の基準に関して必要な事項は、厚生労働省令で定める。

(「水道法」第4条より引用)

 

水質基準項目とその基準値

 では、第4条第2項に記載されている「必要な事項」を定めた「厚生労働省令」とは?
 厚生労働省のホームページを開くと、水質基準項目とその基準値がより具体的に記されている。


  これらの多くの基準項目の「各基準値」を上回った水が水道水として供給されて、利用者に健康被害を及ぼすことが決して無いように、全国各地の水道局では常に検査がなされている。そして、万が一、基準値を上回る項目があった際には、その水が供給される前に、断水等の適切な処理がなされている。
 水質管理というと、公害のような化学物質等の流入事例を思い浮かべる方が多いかもしれない。しかし、直近の例では、台風による取水口への土砂流入で(水道管自体の破損被害が無くとも)広範囲での断水が発生した事例は、ニュースでご覧になられた方々も多いのではないだろうか。
 有毒物質の混入はもちろん、異臭や濁りも適切に検査・管理の上、健康被害が無いよう安全に供給されているのが現在の日本の水道水である。
 まず、ここまでをご理解いただきたい。

「水道水には発がん性物質が含まれている」というデマ

 
 Facebookやツイッター上では、まるで当然のことのように「水道水には発がん性物質が含まれている」と語る人が存在する。
 また、有名歌舞伎役者が現在の水道水が飲用に適さないような発言をして多くの批判を浴びたことも、まだ記憶に新しい。
 デマを引用するのはデマの拡散に加担することにもつながりかねないが、実例として、医療デマや放射能デマの発生源として多くの批判をされている有名医師のFacebookでの発言を下記に一部抜粋し引用する。

*水道水による発ガン危険性としてはトリハロメタンが有名

*トリハロメタンよりも発ガンの危険性が高いのはヒ素かもしれません。

*やはり水道水は塩素の問題だけでなく、人体に有害なミネラル(アルミニウムや鉛など)が含まれているので、人々はよく調べたうえで飲用するか決める必要があるでしょう。

*最近は水道水のアルミ濃度が増えているそうで、プロならみんな知っているそうですね。水道水にある有害ミネラルや放射能が気になるのであれば、水道水に浄水器をつけるのがもっともコストパフォーマンスに優れたやり方でしょう。放射能を取り除くとなると逆浸透膜式浄水器が一般的になります。

Facebookより引用

 説明するのも馬鹿々々しいレベルの言説だが、発信元が「医師」ということもあってか、これに騙されてしまう人が一定数存在するのもまた事実である。
 一応解説するが、トリハロメタンもヒ素も、水道水の水質基準項目に含まれている。そして、先述のとおり、基準項目の「各基準値」を上回った水が水道水として供給され利用者に健康被害を及ぼすことが決して無いように、全国各地の水道局では常に検査がなされている
 また、放射能云々とあるが、福島第一原子力発電所の事故に伴う日本国内の放射線量の問題については、すでにその数値に問題は無く安全であるとの結論が国際的に出されている。
 水道水への不安を煽る活動家や、それに騙されそうな人が身近にいらっしゃるという方々は、「検査項目にあるからといって、それが含まれていることにはならない」ということをしっかりと念頭において、詐欺的な浄水器販売に騙されないように気を付けていただきたい。
 何度も同じことを繰り返して恐縮だが、水質検査とは、それが基準値を下回る安全なものであることを確認するために行うものである。検査されているから怖いというのならば、検査しなければ安心というのだろうか。そのような考えは、病気が見つかるのが怖いから健康診断を受けたくないと言うに等しい。それこそ、安全を軽視した危険な考えではないだろうか。
 なお、蛇足ではあるが、私は上下水道の施工に携わるプロの一人として「水道水のアルミ濃度が増えている」などという話を聞いたことは一度も無いという事実を付け加えさせていただく。

そもそも「発がん性物質」とは?


 がんという病気の発生メカニズムが100%解明された訳ではない現在ではあるが、現時点で発がん性が高いとされる物質等については、農林水産省のホームページに記載されている。

 膨大なものが、がんの要因として挙げられているのがご理解いただけただろうか。

 こうしたデータを踏まえて、日常生活の中でがんにならないよう気を付けることは、大切だと思う。
 私自身、家族や親族、友人を何人もがんで亡くしている。
 がんで苦しむ人が減って欲しいと思うし、自分自身、がんにならないよう食生活や生活環境には出来る範囲で注意して日々暮らしている。

 だからこそ、がんを恐れる人の心を食い物にし、患者や家族を苦しみをむさぼるようなデマには、心底不快感を覚える。
 デマを拡散することで不必要な不安を煽り、それで書籍や商品を売って稼ごうと企むような者たちが、一日も早く法により裁かれることを心から願っている。


不安の奴隷にならないために


 実は、このnoteは水道関連の最初のnoteを書いたのと同時期、2月初旬に下書きを書き始めていた。
 しかし、今日に至るまで、書き上げて発表することが出来ずにいた。
 その理由を、私は先日ツイッターに書いた。

 noteでは丁寧な言葉を心掛けているが、ツイッターでは本音炸裂で申し訳ない。
 しかし、これが水道水デマへの正直な思いである。
 先のnoteに書いた宮城県の水道事業の民間委託については、マスコミ報道の影響や県の説明不足もあったかもしれない。
 だが、水道水そのものの危険を煽る言説については、説明するのも馬鹿々々しいような「悪徳業者によるデマ」でしかなかった。
 


 それでも、

 デマを意図的に流す詐欺師たちはともかく、不安に付け込まれてデマを信じてしまった人や、それに騙された人が身近にいることで「なんとなく不安になってしまってる人達」がいるのも、また事実だろう。

 意図的にデマを流す人達には、このnoteに書いた内容は届かないだろう。 
 けれど、なんとなく漠然と不安を抱いてしまった人達には、安心できる情報を提供したい。正しい情報と根拠を提示して、大丈夫ですよ、と伝えたい。 
 それが、このnoteを公表した理由である。
 一人でも多くの方が、水道水に対する不安から解放され、安心して利用してくださることを心から願っている。


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