山形県鶴岡市・藤沢周平記念館と「雲奔る」感想
先日、山形県内の温泉に一泊した際、私と夫は少し足を伸ばして鶴岡市の藤沢周平記念館に行ってきた。
江戸時代の人々を生き生きと描いた時代小説や、時代を動かし、あるいは時代に翻弄された人々を丹念に追いその心の機微までも描き出すような歴史小説で知られる作家・藤沢周平。
私が初めてその作品に触れたのは高校生の頃。所属していた放送部で、朗読の練習課題としてだった。
時代小説ゆえ、その文章には現代では馴染みの薄くなった語句もあった。けれどその言葉は、声に出して読むに心地良い、美しい日本語だった。
何より、作品の中で交わされる登場人物たちの会話が魅力的だった。その時代を生きていた人達の日常を切り取ったような、生き生きとした言葉の数々。見たことなどないはずの江戸の人々が身近に感じられるほど、その作品の世界に魅了された。
その後、放送部を辞め、朗読から離れてからも、私にとって藤沢周平は好きな作家の一人だった。
藤沢周平記念館を訪れたのは、今回が初めてだった。
そこは、彼の足跡や作品を紹介し、ゆかりの品々が多数展示されていた。
また、ありがたいことにその作品(文庫本)の販売も行っていて、展示を見て興味を持った未読の作品をその場で購入することも出来るのだ。
今回は、「雲奔る(くもはしる)」を買ってきた。
帰宅後。ゆっくり数日かけて読もうと読み始めたが、途中で止めることが出来ず、一気に読了。
サブタイトルに「小説 雲井龍雄」とあるとおり、この小説は実在の人物である幕末の志士、雲井龍雄の生涯を作品にしたものである。
ある意味、辛い結末と分かった上で、手にした一冊。
なのに読み終えた直後は、あまりの展開に茫然としてしまった。
なんと酷いことを、と。
小説の中の雲井龍雄は、勉学に秀でていて、漢詩の才能もあって、けれど少し感情的になり過ぎるところもある、どこにでもいそうな若者だった。
生まれる時代がほんの少し違っていたならば、文学者あるいは政治家として名を残していただろう。
わずか27歳で処刑された悲劇の志士、としてではなく。
歴史は、時に残酷だ。
様々な資料を集め、研究家にも意見を求め、丹念かつ誠実に史実を調べ上げた上で「雲奔る」という作品を書き上げたことが、後書きには記されていた。
歴史は、残酷だ。
けれど、変えようのない事実だ。
そんな「歴史」への敬意、そして、創作というものへの矜持が、この作品にはあった。
誠実さがあった。
この作品に出会えて良かった。
この作家を好きになって、良かった。
私はあらためて、そう思った。
先日の大雨により、山形と秋田では多くの被害が出ている。
山形も、秋田も、美味しいものがたくさんあるのは勿論だが、興味深い歴史があり、魅力的な場所がたくさんある地域である。
夏休みの観光シーズンを迎えるこの時期に大きな災害に襲われたことの影響は計り知れない。
けれど、交通機関が回復し訪問可能となった際には、是非多くの方々に足を運んで欲しい。
私自身、また行きたいと思う。
文学好きの方が多い印象のあるnoteの世界。このnoteが山形県に興味を持つきっかけとなれば、嬉しく思う。
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