記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

人間に向いてない

【人間に向いてない】
『黒澤いづみ』

なう(2024/08/06 16:38:02)

※今回もネタバレ、自分語り、自己憐憫、それに作品を重ねてああだこうだと文句ばかり。

作品自体の感想として、まず、読み易い。
きっと表現や言葉選びが丁寧で繊細で、スっと頭に入ってくる感じ。
語り口調や美晴の台詞なんかが至極穏やかで、滑らかに伝わってきて非常に読み易く感じた。

作品を選んだきっかけは、珍しく本当に特にない。
なんとなくKindle Unlimitedをぼーっと眺めていて、何かいい本ないかなーってスクロールしてた矢先に、目に入ったこの本の情報に、「子供を殺す前に。親を殺す前に。」の言葉。
自分は毒親に育てられてきた自覚があり、またそのお屋も自分を毒親だと理解している複雑な家庭環境で育ってきた覚えがあったので、家族物には惹かれてしまうのだろうな。
自分の不幸な環境と作品内で綴られる不幸に対する感情を重ねてみて少しでも何かしらの言語化をしたかったのかもしれないとかわけわからん思いつきで、読み始めるのにそう長く時間はかからなかった。

そして何より最初の引き込みがすごい!
色々なレビューを読んでみると、「カフカの変身か!」みたいに書いている人がいて、私は恥ずかしながらその作品を読んだことはないけど、こんな感じで始まるらしい。
最初の引き込みが凄くて、早く続き!続き!とSTART。

そして読み進めると本当にあまり聞きたくない言葉が次々目に入る……。
ニート、引きこもり、社会不適合者、社会のゴミ……
いや、今の私やん。(笑)

よかったー!この世界にいたらわたしは10000%の確率で同じ異形になっています。

この感想文、ニートが書く感想文です。
自分の境遇と優一の状況が酷似していて耳が痛いならぬ目が痛い。
働かなくてはいけないのはわかっているけど体と心が言うことを聞かないし、などと言い訳して逃げてばかりで怠けている。
優一の両親は、そんな優一に対して過去は理想の息子に夢見てお父さんをしていた不器用なお父さんと、理想のお母さんをしなければとから回っている不器用なお母さんという印象。
そして優一はまだ心があまりに幼いアダルトチルトレンなため、両親の不器用な愛情に気付かず、自己否定されたことがあまりに衝撃的すぎたのだろう、どんな言葉もでもあの時ああされたしな、みたいな感じで聞く耳を持たないひねくれた子供……。その他、異形となった子供を持つそれぞれの家庭のそれぞれの事情……。
うーん。在り来りで表現はあまりに極端に感じたし、異形になってしまう、そしてそれを当たり前のように受け止めて(受け止めざるを得ない)日常生活を過ごしてしまう各家庭、まるでファンタジーのようだけど、その内情はこれがフィクションではないことを示しており、なんとも複雑な気持ち……。

以下個人的な感想

正直、お父さんが悪者みたいに描かれていたけど、確かに自分が美晴や優一の立場になった時、父親は悪者扱いになるのはわかる、わかるんだけど……本当に悪いのは、甘えや言い訳を捨てるとこの世界の仕組みみたいな節があるので、お父さんもまた可哀想な一人の人間なのに……。と思ってしまった。
三人兄弟の真ん中で、子供の頃はそれなりに努力してきただろうし、きっとあんな性格になったのは厳格な両親を見て育ってきたからだろうし、それでも挫折せず立派に働いて、定年まであと数年というところまで働き続けてちゃんと結婚もして持ち家もあって、生まれてきた息子にはそりゃ苦労せず生きてもらいたいよ。母親が優しい言葉をかけるなら、父親という立場は威厳あるものにしなければならないと思うだろうし、それでも自分の思い通りにならない息子を見て、どうしたらいいかわからない、母親は過保護、なら自分は仕事もあるし任せるか……となってしまうのは致し方がないことなのではないだろうか。
犬を棄てたことだけは同情できないけど、父親だってしんどいだろうに。と読みながら思ったなあ。

母親に関しては、物語が進むにつれて私は息子の気持ちを今まで考えたことなどなかったかもしれないと気付いていくんだけど、それは確かにその通りで。作中はわりと極端に、どうしてわかってくれないのとか、どうして言うことを聞かないの、みたいな表現が多かったから、息子とすれ違うさまがわかりやすくアシストされていた。
それで、息子はというと……あーこりゃもう末期だなという感想。
この状態になっている心情を読むと、大抵の読者はなんだこのゴミ息子は!いい歳して……とか考えるかもしれないけど、彼は体だけが二十を超えたままの心は中学生の男の子だし、あまりに世界を知らないから、自分と両親以外の人間の世界がない。
その閉じこもった世界で、自分でもこのままではいけないとわかっているけど、ひん曲がった性格は真っ直ぐに自分が悪いと思いたくない。思ったところで1人では既に解決できないところまで落ちているし、それを自覚するとただただ辛くて希死念慮に襲われるのみなのだろう。かといって素直に助けを求められるほどこれまで素直な気持ちを伝えて理解されたことがないから、どうせ何をしても無駄、どうしよう、の惰性で毎日を生きていたから、死ねて良かったのだろうなと思っていた。
ちょうど同日に【夜市】

を読んでいたので偶々繋がるが、死にたいけど死ねない自殺志願者にとって、苦しまずして(苦しんだのかもしれないが)人間的に死を得られることは幸運だと思う。
のちのちを見るにつれて異形となっても言葉が通じていたり痛覚が反応している描写があるので実際には「死にたくない」を思わざるを得ないのかもしれないが……。(それで肉体的ではなく精神的な死を実感出来るのかもしれない)

https://note.com/sinegomidomo/n/n96e0d3a7588f

……。(決して自分の境遇を重ねて言い訳をしているわけではない!)

感想として、途中までは良かった。
これをどう終わりに向かわせるのだろうか。
異形化の年齢層が上がっていることから、両親のどちらかが異形化してしまうのはなんとなく察しがついていたので、実はそもそも両親が異形化しており、とか、結局異形化した息子は自分の意思で旅立ち、両親が子供の独り立ちを見送ることになるのか、など考えたが……

( ᵕ᷄≀ ̠˘᷅ )

個人的に結末があまり好きではなく、物凄く悲しかった。
え、そこそれでいいの(;:)そこそれにするの(;:)
せっかく読んできたものが自分の望む「綺麗」に向かっていかず、本を捲る手がだれてきた。
結局息子と母親が対峙して、本心を伝え合うみたいなながれになるけど……。うーん。
個人的に息子に罪はなくても、作品の表題的に死んだままにしてほしかったし、復活があまりに呆気なくて、これも美晴がまた妄想しており、気でも触れてとうとう……?みたいな流れかと思ったのだが……。そして父親が(私は父親に憎しみがないので)なぜか異形化、息子にゴミのように扱われる様に、きっと「ざまあ」などと思うべきなのだろうが、お前は父親のおかげで食えていたのだぞと思わざるを得ないし、母親とのみ和解して父親と和解はしていない様に、「親」との気持ち面の解決が綺麗に済んだ形には思えなかった。
犬の亡霊の件もわけわからないし、この結末なら辛くなってしまって異形を殺してしまった人たち、事故で亡くしてしまった人たち、それら全て愛情がないからした訳ではなく、親だって人間なのだからそうなってしまったを描写していたと思っていたから、ただただ可哀想。救われない。
殺さなかったことが正義という答え合わせをされた感じが、意固地な私には合わない。このタイトルに作者が答えを押し付けてくるのは違うと思う。

なんか終わりまで時間が無いから無理矢理母親と優一だけハッピーエンドにさせて綺麗にしましたよ!って押し付けられてるみたいで、なんだかなあ。

私は過去に親に「お前なんか産まなければよかった」「無償の愛なんてあると思うな。愛情も尽きた」「お前は私の分身だからお前が嬉しいと私も嬉しいしお前が悲しいと私も悲しい」と言われた過去がある。
どうして言われたのかを辿るとあまりに長いけど、私は何があろうとこの言葉たちを綺麗に受け止めることが出来なくて、親と一度離別したことがある。結局仲直りをしたけど、お前は私に一度も本心を伝えない、と言われたので、本心を伝えたら、じゃあもう縁を切ると言われてしまって仲違いをしたから、もう二度と親に本心を伝えることはない。
結局今ニートになって心療内科に通いつつ祖母の家に寄生しているが、親とは距離を取った方が良いのだろうとずっと思う。
でも私の中で、親と関係が切れることは当時とても心にきたし、それが切っ掛けで本当に病んで自死を選択しかけた日もあった。
好きではないけど、生きてきた二十何年間の中で、親と過した十数年は、かけがえのない私の一部なのだろう。
私は親の分身などではないのだから私の気持ちに寄り添うつもりもないのに干渉しないでほしいと今でも思うけど、きっと自分から優一のように親の首を絞めることはできない。

なんか読んでて複雑な気持ちになったけど、当初期待していた何かしらの言語化には及ばなかった。
(優一が想像以上に末期状態で、感情移入できる余地がなかったせいかもしれない)

叙述トリックではないのにオチに失望したのは久しぶりかもしれない。
折角起承転までは良かったから尚更勿体ない。
この作品はハッピーエンドに向かわなくてよい。
きっと優一の考え方は未だに変わっていない。
……じゃないと私が救われない気がしてしまう。

早く私を異形にして土に埋めてくれー!

以上……。