Climbing shoes Review vol,4
筆者特徴:SIN
・クライミング歴:20年
・身長/体重:170cm/53~56kg
・素足実寸サイズ:右24.3mm 左24.5mm
・足型:細身・エジプト型(親指長め)、踵は後ろに張出あり
・クライミングスタイル:ボルダー中心
・クライミングタイプ:非力、主に正対
以下は、あくまで個人的立場でのクライミングシューズレビューです。UNPARALLELに関しては企画者側でもあるので、そういった視点からも書ける内容は書いてみようと思います。
レビュー対象:VIM(UNPARALLEL)
US8.0使用
アッパー:シンセティック+ライニング
アウトソール:RS3.5㎜
剛性:ミディアム/ソフト
足型:ストレート/ダウントウ
ボリュウム:やや細め
製品企画主旨
目指すべき企画主旨は、高難度ルート/課題を登れるスリップオンシューズ、でした。現代のクライミングシューズ・ラインナップからはほぼ絶滅したコンセプトのシューズです。古くは旧5.10社のV10 というモデルがそれにあたります。もちろん新規企画である以上、V10並みではなくV10を超えるシューズであることが必須条件となります。
VIMは、SIRIUSベースのスリップオンシューズとなります。SIRIUS譲りのパワフルなつま先がありながら、自由度の高さと軽快さを合わせ持つ。それがVIMに求められた性能となります。それは爪先はもちろん、ヒールフック、トウフックの前後フックのサポートなど、多岐にわたりますが、同時に「シューズが主張しすぎない」ことも重要なポイントになっています。
前回ご紹介したUP-MOCCと同じくスリップオンシューズですが、UP-MOCCと比べ、使用者をサポートする機能がもう少し盛り込まれたモデルです。
企画主旨のために:ラスト(木型)
VIMのラスト(木型・足型)には、SIRIUSと同じラストが使用されています。UNAPARALLELシューズの中ではやや細身な形状です。
ダウントウですので、慣れていないと不快に感じる方もいるかもしれませんが、そもそもダウントウに忌避感がなければ問題なく着用できるかと思います。
爪先のポイントはやはりストレート形状と言えるラストです。
企画主旨のために:フィット感と自由度の調整
SIRIUSには何よりも高いフィット感が求められましたが、VIMは逆にスリップオンタイプのシューズの特徴である、自由度が必要なモデルです。履き口のエラスティックの伸縮性により、フットワークの際、レースアップシステムにはない自由度が得られるよう設計されています。
ただし、単に伸縮することでルーズになってしまっては意味がなく、ある一定のフィット感(拘束感)は高難度課題/ルートに求められるシビアなフットワークをクリアするための必要条件でもあります。そのため、SIRIUS設計時以上に、スリングショットの張り加減、ヒールカップの剛性やサイズ調整を入念に行っています。また、あわせてカービング形状にカットされた、足指をサポートする大ぶりなエクステンド・トウランドラバーもVIM専用に改めて何度も再設計しました。
アッパー素材も、あえてやや張りのあるシンセティック+ライニングの組合せを採用し、スリップオンシューズでありながら決してルーズになりすぎないよう留意。
スリップオンの特徴でもあるエラスティック由来の自由度と、優れたフィッティングのバランスをギリギリまで調整した結果、SIRIUSのほどではないものの、強傾斜でピンポイントにフットホールドをとらえる爪先、そして自由度の高さからSIRIUS以上のかきこみ性能とスメアリング性能が得られるよう意図しました。
また、VIMと足型がある程度以上適合しているのが条件にはなりますが、入念に調整されたヒールカップはスリップオンシューズながら優れたヒールフック性能を発揮します。またエクステンド・トウランドラバーの副産物的恩恵で、優れたトウフック性能も期待できます。
さらに、自由度の高さと、スリップオンシューズならではの、構成パーツの少なさは、シューズの主張を和らげ、使用者に軽快感を与えるとともに、トレーニングしてきたフットワークを含む総合的なクライミングスキルを素直に発揮できるよう企画意図しました。
企画主旨のために:ラバーと剛性
アウトソールにはRHよりフリクション性能に優れるRS3.5㎜を採用。足先が低荷重な状況に陥りやすい強傾斜でのクライミングでRS3.5㎜ラバーは高フリクションによるサポート効果が期待できます。ミッドソールには硬すぎず柔らかすぎない素材を選定。硬すぎるミッドソールはダイレクト感を失わせるとともに足指での入力を阻害し、柔らかすぎるミッドソールでは極小ホールドに負けてしまう可能性があるため、バランスを考慮し、剛柔の中間とも言えるミッドソールが採用されています。
これと上記フィット感と自由度の調整により、鋭敏なダイレクト感と高フリクションの爪先への入力伝達と、自由度の高いフットワークに対応できるよう設計されています。
企画主旨のために:製品名称の裏話
今となっては絶滅危惧種なコンセププトのシューズ、V10から発案したVIM。このVIMの名称については、日本から提案し、グローバルで承諾されました。
すでの察している方も多いかと思いますが、VIMという名称はPCのソフトウェア(プログラム)名から着想を得たものなのですが、Wikipediaによると以下のようなことが書かれています。
Vimという名称は、オリジナルのviエディタに近づくことを目標として、開発当初Vi IMitation(viの模倣)の略とされていた。しかし、やがてviを超えることを目指してVi IMproved(viの改良)とされるようになり、今日ではオリジナルのviを大きく上回る機能を持つに至っている。
出展元:Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/Vim)
このことから、V10を超えるという命題を与えられた、このダウントウ・スリップオンシューズにふさわしい名称としてVIMと名づけられました。そしてこのVIMの名称アイデアをくれたのは、このシューズをとても気に入ってくれた、某粉末メーカーの友人、通称ハ○セさんだったりします。いわゆる、名付け親ですね。
サイズ感
アッパーに採用されているシンセティックは天然素材であるレザーと比べ、伸び難く軽量な素材です。またそのシンセティックに内張(ライニング)を貼り合わせているため、アッパーに適度な張りがあり、サイズ感の変化は少ないモデルです。そういう観点から、新品状態でも15分は履いて登れる程度のサイズ感で選ぶと良いのではないでしょうか。もちろんの事ですが、可能であれば試着されることをお奨めします。
スリップオンシューズを選ぶ際に「脱げてしまうのではないか?」と不安がり、無理に小さいサイズを選んでしまう方も多いようですが、あまりお勧めできません。理由は「足長に対して小さすぎるサイズのデメリット」で記載させて頂いていますので、良かったらご一読ください。
参考までに、僕は素足実寸 右:24.3㎜ 左:24.5㎜でSIRIUS同様US8.0を着用しています。
個人的使用感
V10を超える、という意味で大切なのはV10の長所と短所を知ることだと思います。僕が考えるV10の長短は以下です。
長所
・スリップオンの軽快感、自由度の高さ
・つま先のピンポイントでホールドをとらえる能力
・優れたダイレクト感とフリクション
・かっこいい
短所
・ヒールカップの剛性不足
・スリングショットのよるアーチサポート不足
・トウフック能力の低さ
・足指のサポート機能が少ない
といった感じです。まあ、全体的にサポート機能が少ないシューズだったのがV10なのですが、そのサポート機能が少ないのが当時は逆に尖って見えて良かったりもしました。
VIMには上記短所を補い、長所をさらに伸ばすため、現代的なクライミングに対応すべく適度なフィット感とサポート性が得られるような工夫をしました。そして使用時にそれらの機能によりシューズの主張が煩わしくないような味付けであることが重要だと考えながら、何度もテストサンプルを微調整して、なんとか製品化にこぎつけた、という経緯がありました。もちろん、アッパーのネオンイエロー・カラーもこちらからの希望カラーです。
完成品に足を入れ、岩を登った時には正直「ホッとした」という心境でした。どこか懐かしくもありながら、全局面でV10を超えることができた、と胸を張って言えるシューズになったと思えたからです。
福島県飯館村。雨後ビショビショに濡れていた、花崗岩前傾壁の美しいプロジェクトライン。深い位置の薄いエッジを的確にコントロールし、デッドポイントでリップをとらえることができたのは明らかにVIMのおかげでした。このシューズのおかげで初登させてもらい、「ひぐるま」という課題名をつけさせて頂いたのは、VIMの完成と合わせて二重にうれしい思い出となりました。
豊田でも御岳でも瑞牆でも小川山でも鳳来でも恵那でもポレットでも白州でも熊野でも、僕が岩に行くときに必ず持っていくシューズがVIMです。UP-MOCC、NEWTRO Lace、そしてVIMのラインナップが基本的に僕のレギュラーシューズになります(場合によって、これにSIRIUSやUP Lace、LEOPARDなどが追加されます)。VIMはこのラインナップ中だと強傾斜用、かき込み用といった位置付けですが、UP-MOCCで歯が立たない課題に出会った場合、8割はVIMの出番です。
僕の足型とよく適合していることもあり、あくまで個人的な感想ですが、ヒールフック性能も非常に高く、正直SIRIUSやNEWTRO Laceと比べても、ほぼ遜色ありません。そしてレースアップモデルの苦手とするトウフックもしっかりこなすことができます。
そしてクライミングシューズにおいて、もっとも重要なつま先ですが、SIRIUS同様、基本的には「ここで踏む」という明瞭なスイートスポットで踏み込むシューズです。ただしSIRIUSほど拘束力が強くないアッパー構造のため、もう少しマイルドな味付けになっています。その分、SIRIUSよりもスメアリングの対応力は高めに感じる場面が多いです。またかき込みに関しては、SIRIUS以上と感じています。
僕はUNPARALLELシューズを企画設計する際、自分自身の趣味嗜好は可能な限り排除するよう意識しています。そうでなくては、多種多様なクライマーに対応する幅広いラインナップを構築することはできないと考えているからです。
それでもこのVIMに関しては、自分の趣味嗜好が非常に強く出ているモデル、と言えるかと思っています。そもそもV10を長く愛用していた僕は、スリップオンシューズが大好きです。やはり何といってもこの軽快感と個人的に目になじんだネオンイエロー・カラーが大好きなのだと思います。
ネガティブ要素
さて、恒例のネガティブ要素です。
・足型があっていないとヒールフック時に脱げやすい
・フィットティング調整機能がない
・やや柔らかめなので、体重が重い方や足指が弱い方は緩傾斜で使い辛い
・なんでベルクロが付いてないの?と若者に不思議がられる
といったところでしょうか?基本的にスリップオンシューズ全般に言えることですね。
補足
今回は特にこれと言って補足すべきこともないのですが、あえて言えばフィッティング調整機能のないスリップオンシューズこそ、脱ぎ履きの際に丁寧な所作をすることをお奨めます。ヒールカップの奥底まで踵をしっかり入れ、トウボックスの足指をきっちり収める。それだけでシューズと足の一体感は格段に高まります。
フィッテイングに関しては「What are "climbing shoes" ? vol,2」により詳しく書いていますので、よろしければご一読ください。
最後に
さて、ついに現状で一番思い入れのあるシューズをレビューしてしまいました。そのため文字数もまさかの過去最高5000字越え。。。
以降の記事は何か書けるのでしょうか?この記事を読んで頂いた方で、もし何かリクエストありましたら教えてください。書けそうな内容なら書いてみるかもしれません。
とは言え今は正にシーズン真っただ中。まずはお気に入りのクライミングシューズを履いて、思う存分に岩を楽しもうと思います!
それでは楽しいクライミング・ライフを!
friction be with you.
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